インタビュー

寝ても覚めても甲状腺の「なぜ?」を問う

精神科医を志し医学部へ入学

学生時代は、ちょうど高度成長期の時代でした。男性であれば工学部志望が圧倒的に多かった時代。自身も最初は名古屋大学工学部に入学しました。
大学入学直後は学園紛争によって授業もままならないような状態でした。半年〜1年程が経過すると紛争も下火になり、徐々に授業も再開されていきました。授業を受ける中で、もっとも興味をもった科目が英語と哲学です。工学部の有機化学を専攻するよりも、哲学をやりたいと思うようになり、そこから次第に精神科医を志すようになりました。そのような中、大学3年生のときに医学部の受験を決意します。

学生時代から甲状腺が好きだった

必死の受験勉強の結果、広島大学 医学部に合格。医学部に入学後はとても勉強しました。その頃から甲状腺の分野がとても好きだったことを覚えています。当時、広島大学には甲状腺の大家の先生がおられ、先生の授業が非常に面白かったのです。
大学卒業後は九州大学 心療内科の医局に入局。研修終了後には、内分泌班に入ることになりました。その班の主任に、甲状腺で有名な隈病院で半年間学んでから徳島大学に入局することを指示されました。

隈病院で過ごした30年

先述したように当初は半年間の予定で隈病院へまいりました。当時の院長であった隈 寛二先生のかつてのご自宅に居候させていただき、単身赴任をしながら隈病院で学ぶ日々。もともと甲状腺が好きで「いつか隈病院で学んでみたい」と思っていた私は、とにかく懸命に勉強しました。しかし、半年後には徳島大学の内科への入局が決まっており、短期間で隈病院を去らなければならないことを覚悟していました。
ちょうどその頃、隈 寛二先生に「君は面白いので、もう少し甲状腺疾患に取り組んでみないか」と声をかけていただきました。これをチャンスと捉え、大学への入局を断った上で隈病院にとどまることを決意。結局それから約30年もの歳月をここで過ごしてきました。

隈病院は大きく発展をとげた

隈病院へ入職した当時は、まだ医師の人数は今のように多くなく、内科は私を含めて2人だけでした。甲状腺疾患の診療や研究に精をだし、とにかく忙しい毎日を送っていました。
隈病院にきてから印象的だった出来事は無数にあります。約30年間の間に内科医・外科医はじめスタッフの人数は格段に増え、紙のカルテから電子カルテになるなど、多くの変化がありました。病院はあらゆる面で大きく発展をとげたと感じています。その歴史をまさに一緒に作っていくことができました。
現在も活発に行っているカンファレンスは、もともとは私が始めたものです。隈病院には膨大な症例データの蓄積があり、カンファレンスのレベルは学会にも負けず劣らず非常に高いものです。

「なぜ?」を追求し続ける姿勢が大切

甲状腺専門病院の医師として、私には甲状腺領域の中で不得意はありません。むしろ不得意があってはならないと思っています。甲状腺に関するすべての領域を得意とするために研鑽を積んできました。
また、臨床と研究を分ける意識もありません。臨床と研究はつながっているものだと考えているからです。日々の診療が研究につながると考え、一人ひとりの患者さんの診療を大切にしています。
甲状腺疾患の治療の基本は、甲状腺ホルモンが高すぎたら低くする、低すぎたら高くする、悪性疾患だったら手術するという3つになります。これらの基本を行うことのみで満足してしまえば、甲状腺疾患の診療を面白いと感じることはなかったかもしれません。常に「なぜ?」と疑問を持ち続け、とことん追求する姿勢を大切にしてきました。

甲状腺の面白さをわかりやすく伝えたい

甲状腺疾患は、さまざまな角度からのアプローチが可能な分野であると思います。診断だけに限ってみても、触診もあれば、画像診断や細胞診、血液検査など、いろいろな方面からアプローチすることが可能です。アプローチしやすいために研究しやすく、非常に面白い分野です。
セミナーなどで甲状腺について講演する機会をいただくことがあります。そのときには、わかりやすく、楽しく、聞いて役に立つようなお話をするよう努めてきました。甲状腺の書籍の編集をするときも同じです。甲状腺について全く知識がない方でもわかるような内容にすることを心がけています。
私が魅了されてきた甲状腺の面白さを、このように少しでも多くの方に伝えたいと思っています。

取り組み続けていれば、いつか光は見える

後進の医師には、一人一人の患者さんの診療を大切にすること、疑問をとことん追求していく姿勢を大切にしてほしいと思っています。たとえすぐには解明できないとしても、徹底的に追求してほしいのです。
私自身、すぐには解明できない疑問があっても、とにかく考え続けるよう徹底してきました。寝ても覚めても考え続けていると、突然ひらめくことがあるからです。実際に、日頃から懸命に患者さんの診療を続け、模索し続けることで、5〜10年抱いていた疑問がある日突然わかるようになったこともありました。
甲状腺に出会い、好きなことに取り組み続けられたことは、幸せなことだと思っています。未だにわからないことも数多くありますが、好奇心を持って取り組み続けていれば、いつか光は見えてくると信じています。

このインタビューのドクター

内科

内科 顧問
深田 修司医師

広島大学医学部卒業後、九州大学の心療内科に入局。その後、当初は半年間の予定で甲状腺疾患を学ぶために隈病院へ入職。甲状腺疾患について懸命に学び続けた結果、隈病院へとどまることを決意。約30年もの間、隈病院で甲状腺疾患の診療や研究に従事。「寝ても覚めても甲状腺のことで頭が一杯」と語るほど、甲状腺疾患の奥深さに魅了されている。患者さんと良好な関係を築きながら基本に忠実な診療を心がけている。

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