インタビュー

日本の甲状腺医療をリードする人材を育成するために

2人の恩師に導かれ、甲状腺外科医に

私は、鹿児島大学医学部を1984年に卒業した後、大阪大学医学部第二外科に入局しました。入局後4年間は、関連病院で消化器外科をメインに研修を積みました。その後、大学に戻ることになったタイミングで遺伝子研究に従事することを希望しました。第二外科の内分泌外科研究班では、当時の外科では珍しく遺伝子研究に取り組んでいたのです。

そして、遺伝子研究をきっかけに甲状腺・内分泌疾患の世界に足を踏み入れることになりましたが、その当時研究班を率いていたのは、甲状腺を専門とする髙井新一郎たかいしんいちろう先生でした。甲状腺の診療や研究に熱心に取り組む髙井先生が、私を甲状腺の道へと導いてくださいました。隈病院院長の宮内昭みやうちあきら先生も同じ医局の出身ですが、髙井先生は宮内先生にとっても恩師にあたります。

医局に在籍した時期が異なるため、私自身は隈病院入職まで宮内先生と一緒に働いたことはありませんでしたが、2001年の夏に突然、宮内先生から連絡をいただき「隈病院に来てみないか」というお誘いを受けました。ちょうど「症例数の多い病院でもっと手術の経験を積みたい」と考えていたこともあり、隈病院に行くことを決意したのです。

同じ病院に在籍したことはなかったものの、学会で宮内先生の発表を聞いたとき「非常にレベルの高い研究をされている」と驚いたことを覚えています。症例の相談をさせていただき、的確な回答をいただいたこともありました。そして隈病院に来てからの20年弱の間、宮内先生から多くのことを学ばせていただきました。髙井先生同様、私にとっては宮内先生も恩師といえます。

この20年間でより充実した病院全体の協力体制

2002年から隈病院で働き始め、それから20年近くここで診療や手術、研究、さらには教育にも従事してきました。病院を新築したり、医師の数が増えたりなど、さまざまな変化がありました。麻酔科や病理診断科にも常勤の医師が在籍するようになり、病院全体でより高いレベルの診療ができる体制が築かれたと思います。

隈病院の特徴のひとつに医師間や部署間の垣根がなく、円滑な協力体制が築かれている点があります。スタッフは皆、甲状腺に対する情熱と豊富な知識・技術を持っていると感じます。私自身も他の医師や他の職種のスタッフから多くのことを学びました。近年は、病院が大きくなりスタッフがさらに増加しています。それでも部署を超えて、お互いに連携し合える体制が、さらに充実してきていると感じます。

隈病院では貴重な人生の時間を10倍活用できる

若手医師には「隈病院では貴重な人生の時間を10倍活用できる」と伝えています。若い時期から多くの症例を経験すれば早く成長することができ、将来は日本の甲状腺医療をリードする医師になることができると考えているからです。また、内科だけでなく外科でも若手医師をサポートする体制を築いています。可能な限り安全で確実な手術を行うため、何か困ったことがあれば、いつでも先輩の外科医に質問するよう伝えています。また、若手医師の手術には基本的に必ずベテラン医師が助手としてサポートに入ります。私がサポートに入るときは、一人ひとりの技量を考慮しながら、技術の向上になるように、なるべく若手医師に任せるようにしています。

私自身は外科医として「何があっても乗り越える」という強い意志のもと、手術中は常に冷静でいることをモットーにしてきました。どんなに注意していても、手術中は不測の事態が起きることがあります。そのようなときに、執刀している外科医が慌ててしまうと、手術に入っている他のスタッフも冷静に対処することができなくなってしまいます。そのため、後進にも「何があっても動揺しないように」と指導しています。

安全な手術を行うためのトリプルチェック体制

私は現在、隈病院の副院長として病院全体を束ねる立場にあります。外科では、術前の症例はまず各執刀医自身が確認、次に私が全ての症例について問題がないかをチェックして、最終的に全症例をカンファレンスで提示して参加者全員で確認する体制を築いています。人間はどれだけ注意していても見落とすことがあります。そのため、執刀医・副院長・カンファレンスのトリプルチェックを行い、安全に手術を受けていただけるようにしています。その中で必要があれば、手術までに検査を追加したり、手術の方法や時期を見直したりするよう指導することもあります。

また、学会発表前には院内で予行を行っており、全科の医師が発表内容を確認することができます。若手医師の中には、本番の学会発表時よりも、院内の予行での質問のほうが厳しいという意見もあるので、予行を経験すれば本番では自信を持って発表することができるでしょう。

第29回日本内分泌外科学会総会の会長に

隈病院の素晴らしい環境で鍛錬し、甲状腺と副甲状腺分野を専門とすることができました。また、2017年5月には、大変光栄にも第29回日本内分泌外科学会総会の会長を務めさせていただきました。通常、このような学会の会長は大学の教授が務めることが多く、市中病院の副院長が抜擢されることは少ないでしょう。話をいただいたときは少なからず驚きましたが、病院からの手厚いサポートのなか無事に開催することができました。このように、隈病院にいたからこそさまざまなチャンスに恵まれたと思っています。

「患者さんのために」という気持ちは変わらない

現在、私は副院長を務めています。副院長に就任後も、いつでも精一杯臨床や研究、そして教育に従事したいと思ってきました。当然、管理職に就けば新しい仕事も増えますし、責任も重くなります。しかし、どんな立場であっても「患者さんのために」という気持ちに変わりはありません。今でも、外来で患者さんに「隈病院にきてよかった」と言われると、とても嬉しいです。隈病院は甲状腺の専門病院ということで、北海道から沖縄まで全国の患者さんが集まってきます。そのような患者さんの役に立つことこそが医師としての喜びです。

今後も患者さんにとってよりよい医療を提供するため、外科技術の向上はもちろんのこと、病院全体の診療体制の再構築などにも力を入れていきたいと思っています

このインタビューのドクター

外科

院長補佐
宮 章博医師

鹿児島大学医学部を卒業後、大阪大学の第二外科に入局。関連病院で外科医としての研鑽を積んだ後、大学で従事した遺伝子研究をきっかけとして甲状腺・内分泌疾患の道へ。2002年に隈病院に入職した後は、診療や手術のみならず、研究や教育にも尽力してきた。2015年には隈病院の副院長に就任。安全な手術を行うためのトリプルチェック体制など、病院全体の診療体制の構築に力を注いでいる。2017年には、第29回日本内分泌外科学会総会の会長も務めた。2024年に隈病院 院長補佐に就任。

この記事をシェアする