インタビュー

甲状腺・乳腺双方のスペシャリストを目指して――成長を求め、部長の座を捨てて再スタートへ

近畿大学の外科医局から乳腺内分泌外科の道へ

私は2002年に近畿大学医学部を卒業し、同大学外科学教室に入局、市立堺病院(現・堺市立総合医療センター)にて2年間の外科研修を修了後、近畿大学に戻り博士号を取得したのち、乳腺内分泌外科の臨床に携わりました。同大学の医学部講師を経て、2016年に大阪はびきの医療センター 乳腺外科部長となり、管理職の仕事、手術から若手医師の指導までを経験しました。その後、さらに専門性を深めるため、がん研究会有明病院(以下、がん研有明病院)に移り乳がん手術を集中的に学びましたが、1年半ほどたったとき、自分のもう1つの専門分野であった甲状腺疾患を本格的に勉強してみたいという思いが芽生えました。そして、市立堺病院のときからお世話になっている宮 章博(みや あきひろ)先生を通じて、2019年4月に隈病院に入職しました。

成長を求め、部長の座を捨てて再スタートへ

大阪はびきの医療センターに勤めていた頃は、乳がん以外にも甲状腺がんを診る機会がありました。しかし、進行がんなど自分の技量では治療が難しい症例は他施設に紹介しなければならないこともありました。部長として若手医師に指導を行っていたため、このままこの施設で部長を務めていてよいのだろうか、と悩みました。自分の実力が不足していると感じましたし、この状況で実力を伸ばすには限界があると思いました。
より多くの経験を積み、医師としてスキルアップしたいと考え、ハイボリュームセンターであるがん研有明病院で、集中的に乳がん診療を学ぶことを決意しました。そして、部長の座を捨てて、一スタッフとして再スタートしました。
がん研有明病院には一般的な症例からめずらしい症例まで、さまざまな乳腺の患者さんが全国各地からいらっしゃるため、多様な経験を積むことができました。そのときの経験は、隈病院に入職してからも生きていると感じています。ただ、1つの領域の手術を行い続けるなかで、もう少し専門の幅を広げたいという気持ちが芽生えてきました。乳がんにおいては、薬物療法や緩和治療なども発展しており全身を管理することが求められるなかで、がん研有明病院では手術が業務の中心ということも、新たな領域に挑戦したくなった理由の1つかもしれません。

甲状腺医療を基礎から学ぶため、隈病院へ

宮 章博先生に送ったメールがきっかけで手術の見学に

次のステップとして甲状腺手術を学ぶため、内分泌外科専門医(日本内分泌外科学会認定)を目指したいと考えました。それまで外科医としては乳腺の手術が中心で、甲状腺の手術は経験が不足していると感じていたため、乳腺と甲状腺、どちらの手術もできる医師を目指そうと決意したのです。そこで、以前からお世話になっていた宮先生にメールを送りました。宮先生は市立堺病院時代の先輩医師であり、日頃から困ったときは相談に乗ってくれました。その返信メールに「隈病院に来てはどうか」といただいたことがきっかけで、隈病院を見学することになりました。
実は、2019年4月に隈病院に入職するまでに、計3回ほど見学をさせていただいています。何度見学しても隈病院の先生方の手術手技や外来診療は大変勉強になり、繰り返し訪れていました。

男性でも育児と仕事を両立できる環境に魅力を感じた

また、私は以前から、「子育てと仕事の両立に取り組んでみたい」という思いがありました。今の日本の場合、働き方改革という考えは出てきているものの、医療の現場では女性医師の子育てと仕事の両立が注目されており、まだ男性医師の子育てと仕事の両立は難しいのが現状です。そのようなときに隈病院で働く先生方を見て、「隈病院であれば、男性でも育児と仕事を両立できるかもしれない」と思うことができました。
宮先生とメールで何回かやりとりをさせていただいたなかで、子育てしながら働きたいということも相談しました。宮先生は「隈病院は必要以上の労働は強制しない方針だし、サポートできる部分はサポートしますので、ぜひ隈病院で一緒に働きませんか」と言ってくださり、その言葉で入職を決意しました。宮先生は、私と隈病院の縁を結んでくださった大きな存在です。

時間を守る文化があり、オン・オフのメリハリがついている

実際に入職してみて感じたのは、院長の宮内先生をはじめ、隈病院の職員はとにかく時間を守るということです。カンファレンス、朝会、外来、歓送迎会などの宴席に至るまで、そのほとんどがきっちり時間通りに始まり時間通りに終了します。
また、日々の業務においても、オン・オフのメリハリがついています。日中の診療時間は非常に忙しいのですが、無駄な残業はしない方針であるため、夜までだらだらと仕事をし続けるということはありませんしコメディカルのサポートも協力的です。時間外も当直以外の医師に緊急対応が任せられることはほとんどありません。
また、困ったことや知らないことがあれば、どんなささいなことでも先輩医師に相談することができる環境です。

丁寧な指導のもと、着実に手術を学び、成長を実感できる

入職後しばらくの間は先輩の助手を務め、3か月後にメインで手術をさせていただけるようになりました。2020年2月現在は毎日甲状腺の手術を行っており、難しい症例にも挑戦させてもらえるため、日々自分の成長を感じられます。隈病院は、技術は自分で手を動かして覚えるという方針であるため、入職後間もない私にも手術をするチャンスを与えてくれるのです。もちろん、手術を習得するまでは先輩が一つ一つチェックをしながら進めるため、着実に、そして医師側が安全に手技を学ぶことができます。患者さんには迷惑がかからないよう、どの先生が手術しても安全な手術ができるシステムの構築を目指しています。
また、先輩医師から手術手技を学ぶなかで、一つ一つの手技には必ず理由があることを知り、「この手技を行うと、こういう結果となる確率が高いのか」と頭の中で整理することができました。隈病院はそうしたことを含めて学べる環境であり、入職してから格段に成長できているという実感があります。学会活動や論文のサポートもすばらしく、宮内院長をはじめ、多くの方々がデータ収集や解析、校正に協力的で、論文投稿も短期間でできます。宮内院長、宮副院長のご理解もあり、がん研有明病院で行っていた乳がんの仕事も継続させていただけており大変ありがたく思っております。
 

成長の実感と患者さんの安心した表情を見ることがモチベーション

私の医師としての目標は、乳腺・甲状腺ともに“患者さんに正しい情報と安心していただける医療を提供すること”です。そのため、外来などで患者さんがご自分の病気をご理解され治療法に納得している表情を見ると、大きなモチベーションにつながります。
また、自分の成長を実感できることも日々の研鑽への原動力となっています。甲状腺手術と診断の技術をしっかりと磨き、患者さんに満足していただける医療を提供できるように、これからも努力を続けていきます。
 

これからの目標――専門医となり甲状腺医療の発展に貢献したい

私には大きく3つの目標があります。1つ目の目標は、隈病院が日本乳癌学会の認定施設になることを目指し、乳腺外科医として乳腺の診断・治療を積極的に行うことです。
2つ目の目標は、内分泌外科専門医(日本内分泌外科学会認定)を取得することです。外科医として甲状腺の治療を専門的に行っているということを、1つの形にしたいと考えています。
そして3つ目の目標は、甲状腺医療の発展に貢献することです。甲状腺がんは乳がんやそのほかのがんに比べると予後がよく、それだけに、ほかのがんほど治療法が発展していない現状があります。しかし、未分化がんなど、一部の甲状腺がんの特殊なタイプは、予後が悪いことで知られています。そうしたタイプの甲状腺疾患に対しては、まだ治療法が確立しているとは言い切れないでしょう。今後、予後不良な甲状腺がんの治療における研究や治験を重ねて、新たな治療法を確立していく必要があると考えます。
私もそうした研究に取り組み、甲状腺医療の発展に貢献していきたいと思っています。
 

このインタビューのドクター

外科

外科 医長、診療情報管理科 テクニカル・アドバイザー
藤島 成医師

近畿大学医学部を卒業後、同大学外科学教室に入局。市立堺病院(現・堺市立総合医療センター)での外科研修を修了したのち、大学で博士号を取得。その後同大学医局の乳腺内分泌外科に配属、医学部講師を経て2016年、大阪はびきの医療センターにて乳腺外科部長を務める。その後スキルアップを目指し、部長の座を捨ててがん研究会有明病院で外科手術の経験を積む。そこでの経験から甲状腺医療の分野にも強い関心を抱き、乳腺と甲状腺の両方を診療する医師になりたいという志を持って2019年に隈病院 外科に入職。入職後は、新人医師の一人としてゼロから甲状腺手術を学び、甲状腺専門医としてのキャリアを着実に積み重ねている。

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