当院での甲状腺疾患に対する治療方法

甲状腺ホルモン剤の服用

甲状腺全摘術を行い、甲状腺ホルモンを分泌する臓器がなくなった場合、あるいは慢性甲状腺炎で甲状腺機能が低下した場合、甲状腺ホルモンの補充のためサイロキシン(チラーヂンS®)というおくすりを服用していただいています。

これは、本来の甲状腺から分泌されるT4(=サイロキシン)という甲状腺ホルモンそのもので、いわば人体の必需品です。血液中のT4濃度と脳下垂体ホルモンであるTSH濃度を測定して適量を決定します。

1.副作用はありません

サイロキシンは人体にとって異物ではありません。本来、人体に存在する必要不可欠な物質です。適量を服用するかぎり、副作用は全くなく、太ることもありません。副作用のある「薬剤」と考える必要はありません。

2.ステロイドホルモンではありません

それでも「ホルモン剤」と聞くと「副作用が強い」と想像しがちです。このサイロキシンは強い副作用がありうるステロイドホルモンではありません。T4(=サイロキシン)という甲状腺ホルモンそのものです。このサイロキシン(チラーヂンS®)の適量を10年飲んでも50年飲んでも副作用を起こすことは全くありません。ご飯を食べる感覚で服用していただいています。

3.妊娠中にも必要です

胎児の脳の発育にも必要です。妊娠中は約30%増量して服用する必要があります。妊娠中の薬剤使用は非常に注意すべき事柄ですが、このサイロキシンは母体と胎児にとって薬剤ではありません。母体と胎児にとって必要不可欠なホルモンです。

4.1日1回の服用で十分です

このホルモンの半減期は長い(7日間)ので、1日に何度も服用する必要はありません。

半減期: 薬剤の血中濃度が半分になる時間のこと

5.人工的に合成した物質です

ウシやブタから抽出したものではないため、ウイルスやプリオンに感染する恐れはありません。

6.他のおくすりとの併用注意

下記のおくすりと同時服用するとサイロキシン(チラーヂンS®)の吸収が低下しますので、服用時間をあけてください。

a.アルミニウムを含む胃薬(グルマール®、アルサルミン®、ファイナリンG®、アランタ®、イサロン®、マーロックス®、コランチル®、SM散®、キャベジン®など)
b.アルミニウムを含む消炎鎮痛剤(バファリン®など)
c.貧血治療の鉄剤(フェロミア®、フェログラデュメット®など)
d.ポラプレジング製剤、亜鉛含有胃潰瘍治療剤(プロマック顆粒®など)
e.炭酸カルシウム(炭カル®、カルタン®など)
f.コレスチラミン・コレスチミド(クエストラン®、コレバイン®)
g.高リン血症治療薬(レナジェル®、フォスブロック®、ホスレノール®)

甲状腺全摘後の血清T S H値について

TSHは“甲状腺刺激ホルモン”といい、脳下垂体から分泌される、文字通り甲状腺を刺激するホルモンです。TSHは甲状腺の細胞を活性化させ、甲状腺ホルモンの産生量を増加させます。甲状腺ホルモンが不足すると下垂体からのTSHの分泌が増加し、逆に甲状腺ホルモンが過剰になるとTSHの分泌は低下します。したがって、一般的には血清TSH値が低いと甲状腺ホルモンが過剰(甲状腺機能亢進症または甲状腺中毒症)であると疑われます。しかし、甲状腺全摘後に甲状腺ホルモン[チラーヂンS (T4)]を服用している方では事情が異なっており、検査値を読む時に注意が必要です。

甲状腺全摘術後 甲状腺ホルモン服用中の場合

甲状腺ホルモンにはT4とT3の二種類がありますが、T3が生物活性のあるホルモンです。甲状腺全摘術後や甲状腺機能低下症の方にはT4による甲状腺ホルモン補充療法を行います。T4はほとんど作用のないホルモン〔プロホルモン〕であり、体内でT3に変わって作用します。T3ではなくT4を使うのはこの方が甲状腺機能が安定するからです。

従来は血清TSH値の正常化を指標に補充療法を行っていました。しかし、私たちの最近の研究で、甲状腺全摘後T4を服用している方においては、血清TSH値が正常の場合には生物活性のあるT3値が低値であること、T4を少し多めに服用して血清TSHが軽度抑制(0.03-0.3μU/ml)の状態でT3値が正常となり、甲状腺機能がより正常に保てることが明らかとなりました。このときにはFT4値はやや高めとなりますが、ホルモン過剰の症状はきたしません。

甲状腺乳頭癌・濾胞癌術後の再発予防

甲状腺から発生した乳頭癌・濾胞癌も、甲状腺の細胞と同じような性質をもっており、血清TSH値が高いと癌が活性化し増殖能力などが高くなると考えられています。そのため、これらの甲状腺癌の術後には、再発予防のために再発のリスクに応じて甲状腺ホルモンをより多めに服用していただき、TSHの抑制を図ります。

放射線性ヨウ素内用療法(アイソトープ療法)

放射線性ヨウ素内用療法(アイソトープ療法)は、ヨウ素制限をした上で放射性ヨウ素の入ったカプセルを内服するだけのとても簡単な治療法です。甲状腺の細胞が、甲状腺ホルモンの原料であるヨウ素という元素をたくさん細胞内に取り込む性質を利用して、バセドウ病の治療や甲状腺癌の遠隔転移の治療を行います。

バセドウ病の放射線性ヨウ素内用療法(アイソトープ療法)

バセドウ病の治療には、抗甲状腺薬を内服する内科的療法、手術する外科的療法、そして放射性ヨウ素を内服するアイソトープ療法の3つがあります。日本では放射線という言葉のせいかアイソトープ療法をためらう方が多いのが現状ですが、欧米ではバセドウ病の治療にアイソトープ療法が最も多く選ばれています。アイソトープ療法はとても安全でよい療法です。

1回内服するだけで甲状腺は少しずつ小さくなり、6か月後には約50%の方でおくすりの内服が不要になります。残りの半数の方は甲状腺機能低下症になりますが、甲状腺ホルモン剤を内服すれば生活に支障はありません。手術などに比べ身体的な負担が軽く、再発が少ないのが特徴です。甲状腺に取り込まれた放射性ヨウ素はどんどん減っていき体外に排出されます。大部分の方が外来で治療ができ、投与量が大量になる場合のみアイソトープ療法専用病室へ数日間入院が必要になります。

長所

* 半数以上の方で、抗甲状腺薬の内服が不要になります。ただし、長期的には多くが甲状腺機能低下症となります。
* たとえ甲状腺機能低下症になっても甲状腺ホルモンの内用量が決定すれば甲状腺機能の血液検査は年に2回程度の通院となります。

短所

* 半数以上の方が甲状腺機能低下症となり、甲状腺ホルモン剤の内服が必要になります。(定期的に検査する事で機能低下になる前に発見できますので実際にその症状がでることはほとんどありません。)
* アイソトープ療法のために一時的に抗甲状腺薬を止めるので、甲状腺機能亢進の症状がでることがあります。
* 突眼症のある場合は、突眼症が悪化することがまれにあります。
* 妊娠時、授乳期、1年以内に妊娠の予定がある場合は、この治療を行うことができません。

甲状腺癌の遠隔転移の病変に対する放射線性ヨウ素内用療法(アイソトープ療法)

 肺、骨などに甲状腺癌(乳頭癌、濾胞癌)が遠隔転移を起こすことがあります。この時に行うのが放射性ヨウ素による放射線性ヨウ素内用療法(アイソトープ療法)です。

甲状腺の細胞は、甲状腺ホルモンの原料であるヨウ素という元素を細胞内にとりこむ性質をもっています。甲状腺癌の細胞も、甲状腺の細胞と同じようにヨウ素元素を取り込む性質を有している場合があり、その性質を利用して遠隔転移(多いのは肺や骨)を起こしている癌に対して行う治療です。

このヨウ素元素には、放射性同位元素(アイソトープ)といって放射線を放出する種類のものがあります。甲状腺を全部摘出した後に、この放射性ヨウ素を投与すると、転移をおこしている癌細胞がヨウ素元素を取り込む性質があれば、シンチグラフィーで検出されますし、放射性ヨウ素を大量に使用することによって癌細胞を破壊することが期待できます。遠隔転移を起こしている病巣を外科的に切除できるのであれば、それが優先されますが、切除不可能な病変、多発性の転移などの時には有効な治療と考えられます。

  • 放射線を使用しますが、アイソトープ(131I)のカプセルを服用するだけです。
  • 体外から放射線を当てる外照射ではありません。体の内部から放射線を当てるので内照射と言います。
  • 甲状腺全摘術をすでに済ませていることが前提です。
    →甲状腺組織が残っていると、服用したアイソトープは正常の甲状腺組織に全て入ってしまい、癌の組織には入らないからです。
  • 甲状腺ホルモン剤の補充をいったん中断してからカプセルを服用します。
    →甲状腺の癌細胞はヨウ素を取り込む力が弱いので、脳下垂体のホルモンであるTSHを増加させる必要があるからです。
    大量のTSHが存在するとアイソトープが癌細胞の内に取り込まれやすくなります。
  • 内服したアイソトープ(131I)が転移の部位(肺、骨など)に取り込まれると、131Iから放出されるベータ線が、その組織を破壊します。アイソトープが取り込まれる可能性は高齢者の癌より若年者の癌が高いようです。
  • アイソトープの副作用はほとんどありません。
  • この治療にはアイソトープ使用の許可を得たアイソトープ病棟のある特別の施設が必要です。当院ではこの施設を完備しています。

PEIT(エタノール注入療法)

PEITは穿刺吸引細胞診と同様に、超音波で見ながら嚢胞に針を刺入し内容液を吸引した後に、嚢胞腔内にアルコールの一種である100%エタノールを1〜2ml注入することにより人工的に炎症させて嚢胞腔をつぶしてしまう治療方法です。注入後は熱感や軽い疼痛が起こることがありますが、氷等で冷やすとすぐにおさまります。アルコールに弱い方は酔っぱらったように感じることがあります。切開が要らず、外来診療で治療を行うことができます。この治療は、特に甲状腺嚢胞に有効です。その他機能性結節などに応用されています。

1回のみで嚢胞腔が消失してしまう場合ももちろんありますが、数回繰り返してやっと効果が認められる場合や何回繰り返しても結局効果が認められない場合もあり、確実性という点では手術のほうが優れています。そのため、物理的な影響が顕著で絶対的に治療が必要と考えられる場合には、特別な危険因子がない限りPEITよりも手術をお勧めしています。手術をするまででもないけれど大きな嚢胞があって外見上目立つのでなんとかしたいという場合などは、PEITが良い適応です。病気の程度により、この治療法の適応や具体的な内容が異なります。

副作用、合併症

* 注入による穿刺部位の痛み、発熱、酩酊感、かすれ声(反回神経麻痺)、出血、甲状腺外組織との癒着がおこることがあります。癒着した場合は、あとで手術治療に変更する時、手術が困難になることがあります。
* アルコールを使用するため、自動車を運転して帰ることができませんのでご注意ください。

禁忌

* 悪性腫瘍、悪性腫瘍の可能性のあるものやアルコールに副作用のある方にはこの治療方法はできません。また、大きな腫瘍の場合は、手術による摘出が望ましいです。

病気について