甲状腺機能が低下してくると全身の代謝が低下するため、体の全ての機能が低下します。精神機能が低下することによって眠気、記憶障害、抑うつ、無気力を生じます。皮膚は乾燥し、毛がぬけたり、指で押しても跡を残さないむくみを生じます。また声帯がむくむために声がかれるのが特徴的です。消化管運動の低下により便秘になったり、心臓機能の低下により脈が遅くなります。他には体重増加、寒がり、疲労感がよくみられます。
しかし機能低下が軽度の場合は、どの症状も特徴的でないため診断の決め手とならず、診断が確定するまで長期間見逃されていることもあります。
原発性甲状腺機能低下症(慢性甲状腺炎による甲状腺機能低下症)
先天的なもの 先天性甲状腺機能低下症(クレチン病) 異所性甲状腺腫(正常な位置に甲状腺がなく、舌のつけねなどに甲状腺ができます)
一過性のもの 産後一過性甲状腺機能低下症 破壊性甲状腺炎の回復期
海草(ヨード)の取りすぎによる甲状腺機能低下症 (これは、海草(特に昆布)の制限をするだけで改善します。)
甲状腺の病気の治療によるもの(永久性です) 術後甲状腺機能低下症 アイソトープ治療後甲状腺機能低下症
甲状腺機能が低下するメカニズムには、次の3つの種類があります。
これを原発性甲状腺機能低下症といいます。甲状腺が破壊される病気や、甲状腺ホルモンの原料であるヨードの欠乏によるものが代表的なケースです。一般的によく見られるのが、このタイプの甲状腺機能低下症だといえます。
これを中枢性の甲状腺機能低下症といいます。甲状腺刺激ホルモン(TSH)が減少したり、また、視床下部から分泌されるホルモン(TRH)の減少によっても生じますが、いずれのケースも、まれな病気です。
これを甲状腺ホルモン不応症といいます。これは、甲状腺ホルモンレセプターの異常が原因です。全身性不応症の場合には甲状腺機能低下症が生じますが、この病気も極めてまれです。
よくみられる原発性甲状腺機能低下症は、治療を始める前に一過性の甲状腺機能低下症か永続性の甲状腺機能低下症かを見極める必要があります。
出産後自己免疫性甲状腺症候群を含めた無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎の回復期の患者様は様々な程度の甲状腺機能低下症を示すことがあります。そういった患者様の一過性の軽度の甲状腺機能低下症は治療の必要がありません。
しかし甲状腺機能低下症の症状が強ければ数ケ月間、合成T3製剤(チロナミン®)を毎日15〜25μg内服していただきます。患者様の血清FT4が正常化すれば中止することができます。
ヨード過剰摂取による甲状腺機能低下症の場合はヨード摂取の制限をすると甲状腺機能が回復することもあります。
永続的甲状腺機能低下症の場合は、合成T4製剤(チラーヂンS®)の服用による治療を行います。
成人の合成T4製剤の内服維持量は100〜150μg/日です。内服治療は通常25μg/日から始め1〜2週間ごとに25μg/日ずつ増量し、維持量にまで持っていきます。維持量に達するのには6週から8週間かかります。60歳未満で心臓や肺に病気がない場合は最初から維持量を内服しても問題はないとされていますが、通常、甲状腺機能低下症の治療は緊急性を要する治療ではありませんので25〜50μg/日程度から開始した方が無難です。
治療開始にあたって最も注意しなければならないのは、狭心症などの虚血性心疾患を合併している場合です。そういった患者様は甲状腺機能低下症の治療開始時に狭心症の頻発や心筋梗塞を生じる可能性がありますので、12.5μg/日程度の少量から治療を開始します。また治療開始前に虚血性心疾患の検査と治療を行っておく方が良いでしょう。