2021.06.10

バセドウ病と妊娠・授乳について (ばせどうびょうとにんしん・じゅにゅうについて)

  • バセドウ病
  • 女性特有の症状
  • 甲状腺の病気の症状

バセドウ病の人は妊娠しにくい?

バセドウ病は甲状腺ホルモンの分泌が過剰となり、動悸や体重減少、月経不順などの「甲状腺機能亢進症」と呼ばれる症状を引き起こす病気です。
バセドウ病で甲状腺機能亢進症の症状がでていると、排卵障害を起こす場合があるなど不妊症との関係が指摘されています。
ただし、バセドウ病は治療により甲状腺機能をコントロールし、症状を抑えることができます。バセドウ病であっても甲状腺機能が正常にコントロールされている場合は、妊娠率に大きく影響はないと言われており、妊娠を希望する方は特に、きちんと診療を受けることが大切です。

妊娠時におけるリスクと対処法

バセドウ病は妊娠中も、治療により甲状腺機能を正常化することが重要です。未治療バセドウ病や治療不十分で甲状腺機能亢進状態にある場合は、流産や早産のリスクが健常妊婦さんよりも若干高くなります。しかしながら、抗甲状腺薬により甲状腺機能が正常化されていれば、リスクを健常妊婦さんとほとんど変わらない程度に抑えることができます。

バセドウ病による胎児への影響

母体において、甲状腺を刺激する物質であるTSH受容体抗体 (TRAb)の数値が高いと、胎児の甲状腺を刺激して胎児が甲状腺機能亢進症となることがあります。
母親がきちんと抗甲状腺薬を内服していれば、抗甲状腺薬も胎児に移行し、一緒に治療されますので心配はいりません。とはいえ、妊娠中にTSH受容体抗体(TRAb)の数値が高い場合は、バセドウ病治療の担当医師が産科医に情報提供を行うなどして、産婦人科との密接な連携が不可欠です。胎児への影響も考え、適切に治療を進めていけるよう、双方の医師とよく相談しましょう。
出生後は、胎児に移行していた抗甲状腺薬の作用が切れると、産後4〜5日経ったころから新生児が一過性の甲状腺機能亢進症を発症する場合があります。生後3ヶ月程度で自然に回復しますが、この場合は小児科医と連携して経過を見ることが勧められます。

奇形やダウン症児など障害児が生まれる可能性についても、抗甲状腺薬を適正に使用すれば、健常妊婦さんと比べて差はありません。
ただし、使用する内服薬による影響で、新生児への先天異常が報告されている例があります。妊娠希望の女性は、必ず妊娠前に、担当医にバセドウ病のコントロール状況と内服薬の注意点について確認してください。

妊娠とバセドウ病の治療方法

薬物治療

バセドウ病治療に主に使われている「チアマゾール(製品名:メルカゾール®)」は妊娠初期には内服することができません。この場合「プロピルチオウラシル(製品名:チウラジール®、プロパジール®)」を使用することがあります。また、即効性を期待する場合には「ヨウ化カリウム丸」が使われることがありますが、服用するうちに効果が弱まってしまうことがあり、長期の内服には注意が必要です。

アイソトープ治療(放射性ヨウ素内用療法)

この治療法は、ヨウ素が体内に取り込まれると甲状腺に集まるという性質を利用して、ごく弱い放射線を出す「医療用放射性ヨウ素」という薬剤を入れたカプセルを服用し、甲状腺の細胞を壊すという治療法です。
周囲の臓器への影響もなく、安全性が確立された治療法で、アメリカなどではバセドウ病治療の第1選択となることもあります。
ただ、妊娠中や妊娠の可能性がある女性、または授乳中の女性は、この治療法を採用することができません。また、治療後、男性は4~6か月、女性は6か月間避妊が必要と考えられていますので、近い時期に妊娠を希望する場合には、医師と相談の上、別の治療法を検討しましょう。

手術

手術で甲状腺を摘出し、甲状腺ホルモンを作らせないようにする治療法です。最大のメリットは、最も早くかつ確実に治療効果を得られるという点で、近い将来妊娠を希望しており、早期の治癒を望む場合には、推奨される治療法です。
ただし、デメリットもあります。入院のために1週間程度仕事などを休む必要がありますし、手術後は多少なりとも傷跡が残ります。また、手術の合併症などで何らかの障害が残るリスクもゼロではありません。さらに術後、生涯にわたって甲状腺ホルモン薬の服用が必要になるケースが多いことも、今後の生活スタイルに照らし考慮する必要があるでしょう。
とはいえ、この「甲状腺ホルモン薬」は副作用もなく、きちんと飲み続ければ心配のない薬です。また、甲状腺をすべて摘出すれば、バセドウ病を再発することはありません。

出産後の注意点。病状の悪化や授乳について

バセドウ病は出産後に悪化する場合があります。その場合は抗甲状腺薬の再開または増量が必要になり、抗甲状腺薬はわずかですが母乳に移行しますので、投与量によっては授乳制限が必要になることがあります。
一例としては、抗甲状腺薬のうちPTU(チウラジール®、プロパジール®)は、一日300mgまでは授乳可、またMMI(メルカゾール®)は使用量と内服方法によっては授乳ができる場合がある、など状況によって様々です。
甲状腺機能亢進症の程度に応じて薬の投与量は変わりますので、授乳可能かどうか主治医に確認しておきましょう。

関連記事