2021.06.01

子どもの甲状腺の病気 乳児・小児のバセドウ病 (こどものこうじょうせんのびょうき にゅうじ・しょうにのばせどうびょう)

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子どものバセドウ病

子どもがバセドウ病になりやすいわけではありません。乳児期のバセドウ病発症は非常にまれです。当院でのバセドウ病患者でも、最年少は3歳です。出生時に甲状腺中毒症(甲状腺ホルモンの過剰状態)があり、バセドウ病の原因物質といわれているTSH受容体抗体(TRAb)が陽性であった場合、赤ちゃん自身の異常というよりはバセドウ病の母親からのTRAbの移行(TRAbは胎盤を通して母親から赤ちゃんに移動します)に伴う新生児バセドウ病を疑います。この場合、通常は赤ちゃんの甲状腺機能異常は一時的なもので、母親から移行したTRAbが消えていくと自然に改善するため治療を要しないことが多いです。
 
幼児期以降では、頻度は少ないもののバセドウ病に罹患することはあります。学童以上、特に思春期の頃を境に患者数は増加します。診断は大人の場合と同様、甲状腺中毒症があるか、TRAbが陽性か、甲状腺のヨード摂取率がどうか、といった検査をして判断します。

子どものバセドウ病治療

薬物治療

バセドウ病と診断された場合、治療の第一選択は薬物治療となりますが、大人で使用されている2種類の抗甲状腺薬のうち、プロピルチオウラシル(商品名:チウラジール、プロパジール)については小児では避けた方がよいとされています。主に海外で、小児に使用された場合に重症の肝機能障害の発生率が高いと報告されたためです。従って多くの場合、チアマゾール(商品名:メルカゾール)で治療が開始されます。ただ小児期に発症するバセドウ病では大人の場合に比べ治りにくく、また再発率も高いとされていて、お薬だけで寛解状態(甲状腺機能が安定し治療が必要ない状態)に至るのは難しいケースが多いのが現状です。そのような場合、副作用が見られなければ長期に薬物治療を続けるのも一つですが、他の治療法を選択することもできます。薬物治療以外には、手術と、放射性ヨード内用療法(アイソトープ治療)という方法があります。

手術

手術は、過剰に働く甲状腺を切除することでホルモン状態のコントロールをします。薬の副作用が出現し投薬ができなくなった場合や、薬によるコントロールが難しい場合、また甲状腺の腫れが非常に大きい場合などに選択されるケースが多いです。手術を選択された場合、術後の再発を防ぐため、当院では甲状腺全摘術もしくは準全摘術(残す量が非常に少ない)をおすすめしており、その場合、ほぼ全例で術後に甲状腺機能低下症となり甲状腺ホルモン剤による補充が必要となります。しかし、薬でコントロール困難であった例など、バセドウ病治療に難渋することを考えれば、術後の甲状腺機能低下症はホルモン値が大きく変動することは殆どなく、ホルモン剤の内服さえきちんとしていれば通常は数値も体調も安定することが多いので、機能低下症自体も治療効果と捉えていただいています。

アイソトープ治療

アイソトープ治療は、放射性ヨードを内服して、甲状腺を放射線の力で破壊してホルモンコントロールを行います。かつては18歳以下では禁忌とされたこともありましたが、現在は5歳以下が「原則禁忌」、5歳を超えれば18歳以下でも医師の判断により「慎重投与」が可能となりました。小児では必ずしも安易に推奨する治療法ではありませんが、外来で治療が可能であること、体に傷が残らないことなど手術と比べてメリットもあり、主治医と相談の上で選択の一つとして考えてもよいでしょう。バセドウ病眼症(突眼、瞼の腫れなど)の合併がある場合はアイソトープ治療後に悪化する可能性があること、甲状腺の腫れが大きい場合などは放射性ヨードの投与量が大量になるので、これらのケースではアイソトープ治療はお勧めできません。また、手術と同様、甲状腺の破壊が大きく起こると治療後に甲状腺機能低下症になるので、その後は甲状腺ホルモン剤の内服が必要になります。

心がけていただきたいこと

小児期発症のバセドウ病に関しては、学校に通いながら、受験や進学など生活環境の変化も多く、その都度甲状腺機能に影響が出てしまうこともあります。まず大切なのは、親御さんだけでなく、できるだけ患者さん本人にも病気を理解してもらうこと、そして医師としっかり話をしながらきちんと治療を受けていただくことです。近年、小児期から成人期への治療の移行(移行期医療)が医学界でも注目されるようになってきました。治療に長期を要することの多い疾患ですので、治療や通院を途中で中断したりしないように注意しましょう。

小児慢性特定疾病医療助成について

小児のバセドウ病は、国の制度で医療費助成を受けることができる小児慢性特定疾病医療助成の対象疾病です。
小児慢性特定疾病医療助成は、疾病ごとに定められた認定基準を満たす患者の医療費を公費によって助成をする制度で、世帯の所得や疾病の重症度などによって一部自己負担の限度額が定められています。
小児慢性特手疾病の医療費助成の対象となるのは、18歳未満の児童で厚生労働大臣が定める疾病と診断され、病状の程度が一定以上の場合で、指定難病の方であっても、症状や重症度等によっては医療費助成の対象とならない場合があります。
小児慢性特定疾病医療助成を利用するには、指定医療機関に「小児慢性特定疾病医療意見書」の作成依頼をし、申請に必要な書類と共に申請窓口に提出します。申請方法は各都道府県・市町村によって異なる場合がございますので、必ず一度、各申請窓口へお問い合わせください。
(各都道府県・市町村申請窓口)
 
この制度を利用するには、児童の保護者がお住まいの地域の保健福祉担当課や保健所などの窓口へ申請することで、支給認定を受けることができます。申請をするには、指定医療機関が発行する「小児慢性特定疾病医療意見書」が必要なため、まずは医療機関に作成の依頼をしてください。
申請が通ると、対象疾病及び対象疾病に付随しておこる疾病に対しての医療費のうち、健康保険(医療保険)の適用分が医療費助成の対象となります。対象疾病以外の治療費は対象外です。患者負担割合は2割で、世帯員全員の前年の市町村民税額等に応じて、自己負担上限月額が決まっています。
当院も指定医療機関です。小児慢性特定疾病医療助成についてのご相談、問い合せは担当医、あるいは1階受付窓口で承っておりますので、お気軽にお声がけください。

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