インタビュー

手術は安全第一に。そのための手間は決して惜しまない

大阪大学での恩師との出会いがきっかけで甲状腺を専門に

私は東北大学医学部を卒業後、地元である大阪の地に戻って大阪大学大学院に入学し、主に消化器や甲状腺、乳腺・内分泌を専門とする腫瘍外科へ入局しました。そのなかでも腫瘍外科がもっとも力を入れている領域は乳腺・甲状腺でした。さらに当時の腫瘍外科は甲状腺を専門とする高井 新一郎(たかい しんいちろう)先生が教授を務めており、隈病院院長の宮内 昭(みやうち あきら)先生の師匠でもある方でした。その師匠高井先生の下で多くの甲状腺医療を学ばせていただくうちに、自然と「甲状腺の専門医になろう」と考えるようになっていました。
そのため、消化器一般外科に従事していた期間は合計しても4~5年ほどで、比較的早い段階で甲状腺外科への道に足を踏み入れたことになります。医局で高井先生に出会っていなければ、まだ若手の頃にそのような決断はできなかったと思っています。
 
また、大学院在学中は、研究のために臨床検査診断学講座(現:病院臨床検査学教室)に入り、網野 信行(あみののぶゆき)先生の下で遺伝子研究に携わりました。当時は“遺伝子”という領域がブームを迎えており、さまざまな病気の原因遺伝子が発見され始めていた頃だったため、シンプルに面白そうだなと考えたのです。博士号を取得した後は海外留学や一般病院で研究・臨床の経験を積み重ねました。

隈病院との不思議なつながり

甲状腺を専門にするのであれば症例数の多い施設で多くの経験を積みたいと考え、2004年に自ら志願して、医局派遣の形で隈病院 外科に入職しました。隈病院は大学に比べて甲状腺の症例数が圧倒的に多く、私が臨床検査診断学講座で研究を行っていたときに使用した検体もほとんど隈病院からいただいたものでしたから、「隈病院に行けば甲状腺外科として成長できる」と思ったのです。
そして、2020年現在まで16年間ずっと隈病院に勤務し、現在は外科 副科長として臨床や後進の指導を務めています。
 
なお、関西地域で甲状腺に携わる医師同士の世界は狭いのか、意外なところでもつながりが見えることがあります。高井先生が宮内先生の師匠でもあることは先ほど述べたとおりですが、そのほかにも網野先生が以前まで隈病院に勤務していたり、網野先生の兄弟弟子が現在の隈病院 臨床検査科に勤めていたり――。不思議なつながりがたくさんあったからこそ、今に至っているのかもしれません。
 

後輩医師に伝えたい“安全第一”の大切さ

私の甲状腺外科医としてのモットーは何と言っても“手術は安全第一であること”です。「安全に手術をするための手間は絶対に惜しまず、徹底的にリスクを減らす」。これは、後輩医師を指導する際にアドバイスしていることでもあります。
ただし、どれだけ安全を意識していても術後合併症が起こる確率を完全にゼロにすることはできません。ですから、もしも不可抗力で合併症が起こってしまったときは、どのような対応をすることがその患者さんにとって一番メリットになるかを考えることが大事です。一人ひとりの患者さんの状況に応じて適切な判断を行った結果、患者さんに感謝していただけることは、次の臨床や研究に取り組むためのモチベーションにもつながります。

甲状腺疾患・手術を若手や一般の方に伝えるための工夫

若手医師・新人医師には経験談も交えて解説

甲状腺を専門にして間もない医師や若手医師は、甲状腺がんに複数種類があることを知らない場合も珍しくありません。そのため、彼らに対して甲状腺がんの解説を行う場合は、まず甲状腺がんにはさまざまな種類があることから解説します。また、一般の方に解説をするときと同様になるべく具体例を出すように意識しており、私がこれまでに経験した症例の話も交えて解説することもあります。
 
なお、入職して間もない頃に甲状腺手術の知識や経験がほとんどなくても、心配する必要はありません。隈病院では若手医師の方でも積極的に手術を任せてもらえる環境です。2年程度在籍すれば、基本的な症例は一通り経験でき、まれな症例や難しい症例を除けば自分自身で手術を進められるようになるでしょう。短期間で多くの症例を経験したい医師にとっては、恵まれた環境です。もちろん、上級医による指導体制とバックアップ体制も行き届いており、手術中判断に迷ったときなどはすみやかに上級医がサポートしますから心配はいりません。

一般の方には甲状腺という存在があることから伝える

最近では一般の方向けに甲状腺疾患に関するテーマで講演を行う機会も増えてきました。一般の方の中には甲状腺という存在そのものを知らない方もいらっしゃるため、まずは甲状腺とはどのような器官で、どこに存在してどのようなはたらきをしているのかというレベルから解説をしています。このほか一般の方向けに講演を行う際に意識していることは、基礎知識を持たない方でもなるべく病気についてのイメージがしやすくなるように“具体的な例を出すこと”、“比喩を適宜用いること”です。これは、一般の方向けの講演のみならず患者さんに病気の説明をするときも同様で、できる限り分かりやすい話ができるように心がけています。

甲状腺の面白さは“バリエーション”にある

甲状腺がんは、乳頭がんや未分化がんなど複数の種類があり、病気の進行速度もその種類によって大きく異なることが知られています。1つの器官に発生するがんとして、これほどバリエーションが豊富なものは珍しいのではないでしょうか。私は、甲状腺の面白さとはその幅広さにあると感じています。
なぜ、同じ甲状腺がんというカテゴリの中にありながらも、比較的大人しくて進行が遅い乳頭がんから、非常に悪性度が高くて進行が速い未分化がんまでが存在するのか。今後研究を重ね、さらに甲状腺がんにおける医療が発展すれば、いつかその謎が解明される日がくるかもしれません。
 

病院の成長と共に走り抜けた16年間

入職当時から2020年現在までの16年間で、隈病院は施設設備・受け入れ患者数・在籍医師数などのあらゆる面において大きく成長したと思います。入職当時はちょうど第一期の改装工事が終わった頃で、規模的にもこぢんまりとした病院でしたし、在籍する外科医も5人程度だったと記憶しています。対して2020年現在は改装が終わって設備面が整い、受け入れ患者数も増え続けています。また、患者数の増加に伴い医師数も増え、今は甲状腺内科・外科をはじめ、頭頸部外科医(とうけいぶげかい)も募集しているほどです。
こうして振り返ってみると、この16年間で隈病院は確実な変化を遂げたと感じますし、私自身も病院の成長と共に甲状腺外科としての道を走り抜けてきたと言えるかもしれません。もちろん、これからも、隈病院と共に成長を続けながら甲状腺医療に尽力していきたいと思っています。

このインタビューのドクター

外科

外科副科長
東山 卓也医師

東北大学医学部を卒業後、大阪大学大学院に入学し、主に消化器や甲状腺、乳腺・内分泌を専門とする腫瘍外科へ入局。同医局での恩師との出会いをきっかけに甲状腺専門医への道を志す。同大学臨床検査診断学講座での遺伝子研究や一般病院での臨床に携わったのち、2004年より隈病院に入職し、本格的に甲状腺専門医としてのキャリアを積む。現在は外科 副科長として日々の臨床を務めるほか、後進の指導や一般生活者への講演活動などにも力を注いでいる。

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