2021.09.10

甲状腺乳頭がん (こうじょうせんにゅうとうがん)

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病気の特徴

甲状腺乳頭がんは、甲状腺がんの一種です。甲状腺がんは他に甲状腺濾胞がん、甲状腺未分化がん、甲状腺髄様がん、悪性リンパ腫がありますが、この中で最も多いのが甲状腺乳頭がんです。
乳頭という名前ですが、胸にある乳腺とは全く関係がありません。顕微鏡で観察するとがん細胞が集まって「乳頭」のような形をつくっているので、この名前がつけられています。

女性に多く、年齢は10から80代まで幅広く発症しています。原因は不明ですが、約2から5%の確率で家族内発症があります。
比較的、生存率が高く、90%以上が生涯再発することはありません。

甲状腺乳頭がんには、そのほかに以下のような特徴があります。

・ゆっくり発育し、性格がおとなしい症例が多い
・頸部のリンパ節への転移が多い
・肺や骨など遠隔臓器への転移は少ない
・進行すると、反回神経(声を出す神経)や気管に浸潤することがある

ステージはIからIVまであり、ステージが上がるほど病気が進行していることになります。当院の乳頭がん症例では、術後10年で再発する確率がステージI で7%, , IIで17%, III で31%。術後10年で甲状腺がんのために亡くなる確率(がん死率)は、Iで0% ,IIで4%,Ⅲで8%。 ただし、術前に遠隔転移のあるIVでは、67%まで上がります。
 

 

自覚症状と診断・発見

痛みなどの症状はほとんどなく、あったとしても甲状腺のしこりやリンパ節の腫れ程度です。しこりも大きくなるまでわからないことが多く、自覚症状をきっかけに発見される例は少ないため、診断が遅れてしまいがちな病気です。
検査では、血液検査、超音波検査、細胞診、CT検査などを行い診断します。

治療

大きさが1cm 以下の小さい甲状腺がんを微小がんといいます。このうちリンパ節転移や遠隔転移がなく、甲状腺外に浸潤していない低リスク微小がんは進行しないか、しても緩やかなことがほとんどです。当院では低リスク微小がんの患者さんにはまず経過観察を行い、もし進行してくるようであれば手術を施行するという方針を取っています。それで深刻な再発をきたした方やがん死した方の例は、現在までありません。
 

それ以外の乳頭がんに対しては基本的に手術を行います。術式は甲状腺切除とリンパ節郭清ですが、手術の範囲は進行度によって異なります。術後は甲状腺ホルモン剤や、甲状腺全摘の場合はビタミンD製剤の服用が必要になることがあります。その他の手術合併症としてかすれ声、リンパ液が漏れる、大声や高い声を出しにくい、出血(約1%)など、そして甲状腺全摘の場合には低カルシウム血症による指先のしびれが考えられますが、十分に注意して手術を行います。
手術後の入院日数は切除の範囲などによって異なりますが、おおよそ5から7日間程度です。

術後は定期的に受診していただき、採血や超音波検査で再発の有無を確認し、投薬の調節をします。10から20年ほどの間、再発の可能性があるため、長期にわたる経過観察が必要です。
とはいえ予後はおおむね良く、若年者の予後はとくに良好です。
 

 

家族性の甲状腺乳頭がんについて

甲状腺乳頭がんの場合、2から5%が家族内の複数の方に出現するといわれています。遺伝が原因とされており、比較的若年者に多いのが特徴です。家族性乳頭がんの予後は家族歴のない症例に比べて特に悪くはありませんが、甲状腺内にがんが多発しやすいという特徴があります。また片葉切除を行った場合、残存した甲状腺にがんが再発する頻度は5%で家族歴のない症例よりも5倍高いことがわかっています。甲状腺切除範囲については、それをふまえて担当医とご相談ください。家族性甲状腺乳頭がんの発生頻度は低いとはいえ、早期発見・早期治療が望ましいので、ご家族のなかで甲状腺乳頭がんの手術をされた方がいるときには、念のため甲状腺の検査をすることをおすすめします。

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