2021.09.05

甲状腺微小乳頭がん (こうじょうせんびしょうにゅうとうがん)

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病気の特徴

大きさが1cm以下の小さい甲状腺がんを微小がんといいます。ほとんどが乳頭がんです。

甲状腺とは関係がない原因で亡くなった方の病理解剖の研究で、甲状腺には非常に高率で微小がんが認められます。超音波検査を用いて検診すると成人女性の3.5%に微小乳頭がんが発見されます。微小がんであっても、手術でリンパ節を取ると、30%以上の方に顕微鏡的なリンパ節転移があります。しかし不思議なことに、リンパ節を取っても取らなくても再発率は変わりません。顕微鏡レベルのリンパ節転移は生命や健康の障害とはほとんどならないようです。
さて、こんなに高頻度で発見される微小乳頭がんの全てに手術が必要でしょうか?

リンパ節転移や遠隔転移がない低危険度の微小がんに対して、当院(1993 年〜)およびがん研有明病院(1995 年〜)では手術しないで経過観察していますが、これによって、大部分の微小がんはほとんど進行しないこと、もし少し進行してもその時点で手術すればその後に再発した方はいないことが明らかになりました。

当院ではすでに3,000名以上の微小がんを経過観察していますが、10年間でサイズが3mm以上増大したのは5%、リンパ節転移が出現したのは1%にすぎず、進行した患者様はその時点で手術を受け、その後再発はありません。そのため、最近の日米のガイドラインでも、そのため最近の日米のガイドラインでも「微小がんは手術をせず定期的な経過観察でもよい」とされています。

微小がんの手術は難しいものではありませんが、それでも当院のような専門病院で手術を行っても重大な合併症である永続性の声帯麻痺が0.9%、副甲状腺機能低下症が1.4%と低率ながら起きていました。
 
さらに10年間の医療費は手術の方が経過観察より4.1倍高いことも分かりました。大きい乳頭がんでは高齢者の方が質が悪いのですが、不思議なことに微小がんは高齢者の方が進行しにくいということが、当院での臨床経験から分かってきており、大多数の患者様は恐らく一生手術を受ける必要はないであろうと推測されます。

以上のことを総合的に判断して、当院では低危険度の微小がんと診断された患者様には、治療の第一選択として積極的経過観察をおすすめしています。経過観察中に、もし病気が少し進行した場合には、その時点で手術を行えば、ほぼ手遅れにならないと思われます。ただし、下記の危険性が高い微小がんには手術をおすすめします。

危険性が高い甲状腺微小がん

  1. 1.超音波検査やCT 検査などで明らかにリンパ節などに転移がある場合
  2. 2.がんが声帯を動かす反回神経の近くにある場合
  3. 3.がんが気管に浸潤している可能性のある場合

治療

手術を選ばれた方には手術を行い、術後は定期的に観察します。積極的経過観察を選ばれた場合は、最初は半年後、その後は原則的に1 年ごとに超音波検査などによりがんの進行状況を観察します。腫瘍が明らかに増大するかリンパ節転移が新たに出現した場合は手術をおすすめめします。それ以外は患者様が手術をご希望にならない限り、経過観察を続けます。当院では非常に多くの患者様が、10年以上にわたって経過観察を続けていらっしゃいます。また、上に述べましたように、たとえ少し進行しても、その時点で手術を受けられれば手遅れになった症例はありませんので、ご安心ください。よりくわしい説明は隈病院ホームページの「隈病院が取り組む新しい甲状腺医療」をご参照ください。

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