2021.08.15

甲状腺機能低下症 (こうじょうせんきのうていかしょう)

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症状

甲状腺機能が低下してくると全身の代謝が低下するため、体のさまざまな機能が低下します。精神機能が低下することによって眠気、記憶障害、抑うつ、無気力を生じます。皮膚は乾燥し、毛がぬけたり、指で押しても跡を残さないむくみを生じます。また声帯がむくむために声がかすれることもあります。消化管運動の低下により便秘になったり、心臓機能の低下により脈が遅くなったりします。他には体重増加、寒がり、疲労感がよくみられます。



しかし機能低下が軽度の場合は、どの症状もあきらかではないため診断の決め手とならず、診断が確定するまで長期間見逃されていることもあります。
 

 

原因

○ 原発性甲状腺機能低下症(慢性甲状腺炎による甲状腺機能低下症)
○ 先天的なもの
○ 先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)
○ 無甲状腺
○ 異所性甲状腺腫
(正常な位置に甲状腺がなく、舌根部分などに甲状腺組織が認められます)
○ 一過性のもの
○ 産後一過性甲状腺機能低下症
○ 破壊性甲状腺炎の回復期
○ 海藻(ヨウ素)の取りすぎによる甲状腺機能低下症
(これは、海藻(特に昆布)の摂取制限をするだけで改善します)
 



○ 甲状腺の病気の治療によるもの(永続性です)
○ 術後甲状腺機能低下症
○ アイソトープ治療後甲状腺機能低下症

 

 

 

分類

甲状腺機能が低下するメカニズムには、主に次の2つの種類があります。
 
1.甲状腺そのものが原因であるもの
これを原発性甲状腺機能低下症といいます。甲状腺が破壊される病気によるものが代表的です。最も一般的によく見られるのが、このタイプの甲状腺機能低下症です。
 
2.脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)が不足したため甲状腺が刺激されなくなっているもの
これを中枢性の甲状腺機能低下症といいます。TSHが減少したり、また、視床下部から分泌されTSHを刺激するホルモン(TRH)の減少によっても生じますが、いずれのケースも、まれな病気です。
 

 

 

治療

よくみられる原発性甲状腺機能低下症は、治療を始める前に一過性の甲状腺機能低下症か永続性の甲状腺機能低下症かを見極める必要があります。
 
一過性甲状腺機能低下症の場合
出産後自己免疫性甲状腺症候群を含めた無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎の回復期の患者様は様々な程度の甲状腺機能低下症を示すことがあります。そのような患者様の一過性の軽度の甲状腺機能低下症は治療の必要がありません。
 
しかし甲状腺機能低下症の症状が強ければ数か月間、合成T3製剤(チロナミン®)を毎日15μg程度内服していただきます。患者様の血清FT4が正常化すれば中止することができます。
 
ヨウ素過剰摂取による甲状腺機能低下症の場合もヨウ素摂取の制限をすると甲状腺機能が回復することもあります。
 

 

 


永続的甲状腺機能低下症の場合
永続的甲状腺機能低下症の場合は、合成T4製剤(チラーヂンS®)の服用による治療を行います。
 
成人の合成T4製剤の内服維持量は甲状腺機能低下の程度によって様々ですが、最大で100〜150μg/日です。内服治療は通常少量から開始し、維持量にまで徐々に増やします。維持量に達するのには数か月かかります。60歳未満で心臓や肺に病気がない場合は最初から維持量を内服しても問題はないとされていますが、通常、甲状腺機能低下症の治療は緊急性を要する治療ではありませんので25〜50μg/日程度から開始した方が無難です。
 
治療開始にあたって最も注意しなければならないのは、狭心症などの虚血性心疾患を合併している場合です。そういった患者様は甲状腺機能低下症の治療開始時に狭心症の頻発や心筋梗塞を生じる可能性がありますので、12.5μg/日程度の少量から治療を開始します。
▼甲状腺機能低下症について、詳しく解説している動画はこちら