2022.09.27

バセドウ病特有の顔つきとは? (ばせどうびょうとくゆうのかおつきとは)

  • バセドウ病
  • 甲状腺の病気の症状

バセドウ病とは?

バセドウ病とは甲状腺疾患の1つです。甲状腺の働きとして、新陳代謝を活発にしたり、細胞の成長を促す役割をもつ甲状腺ホルモンが分泌されますが、バセドウ病ではこの甲状腺ホルモンが異常に多く分泌され、新陳代謝が過剰になることでさまざまな症状を引き起こします。
症状としては、甲状腺の腫大や、頻脈による甲状腺機能亢進症状(動悸・多汗・体重減少・疲労感・手の震え・息切れなど)が代表的なものとして挙げられます。

そしてもう1つ、顔つきに症状が現れるのもバセドウ病の特徴です。特に顕著に見られるのが、目に現れる症状で、これらの症状をまとめて「甲状腺眼症(バセドウ病眼症)」とよんでいます。
ただし、この眼症状は患者さんすべてに現れるわけではなく、患者さん全体のおよそ25~50%に起こるとされています。

詳しい内容は、下記のコンテンツをご参照ください。

 
 

バセドウ病によって起こる顔つきの変化

眼球突出

バセドウ病の特徴としてよく挙げられるのが、「目が出る(目がとびだす)」、眼球突出と呼ばれる症状です。
これは免疫の異常が原因と考えられています。それにより、①まぶたや眼球の後ろの組織に炎症が起こり、その部分がむくんで腫れてしまう、もしくは、②眼球周りの脂肪が増え、眼球が前へ押し出される、といった2つの症状のどちらか、もしくは両方が影響して生じます。

しかし、上記のとおり、バセドウ病の方全員に目の異常が出るわけではありません。臨床的に明らかな突眼と言える症状は、バセドウ病患者の約10%程度です。

詳しい内容は、下記のコンテンツをご参照ください。

 

上眼瞼後退

バセドウ病では、上眼瞼(上まぶた)にも異常が現れることがあります。ただし、その原因は主に下記の2つに分かれます。

【甲状腺ホルモンの異常】
バセドウ病発症初期では、甲状腺ホルモン過剰分泌の影響で、まぶたを動かす筋肉が収縮し、主にまぶたが吊り上がったような症状が見られます。このホルモンの過剰分泌が原因の場合は3割程度で、多くが以下にあるような免疫異常によるものです。

【免疫の異常による炎症】
一部(約3割)を除いて、バセドウ病による上眼瞼症状の多くは、免疫の異常により、まぶたを動かす筋肉に炎症がおこることが原因です。そのため、ホルモンの治療のみでは、症状が改善することはありません。
さらに、この上眼瞼後退の症状が強い場合には、上記の眼球突出が生じていなくても、眼球が突出しているように見える「みかけの眼球突出」という状態となります。

眼の位置ずれ(斜視)、眼球運動障害など

眼球の奥にある、眼球の向きを変える筋肉の総称を「外眼筋」と呼びます。免疫異常によって、特にこの外眼筋が炎症を起こすと、眼球の動きに影響を与え、目の位置がずれる斜視という症状が起きる可能性があります。

ほかにも、顔つきに見られる症状としては、「まぶたの腫れ」や「逆さまつげ」も挙げられます。どちらも免疫異常によって周囲の組織が炎症を起こすことであらわれます。

また眼球突出や眼瞼後退に伴い、ドライアイや眼精疲労、ものが二重に見える(複視)などの視覚的な症状も起こります。特に視力の低下など、視神経の障害によって起こる症状については早急な治療が望まれます。

治療による症状の改善

眼の症状の治療は、その関係する要因によって異なります。

1.甲状腺機能亢進による甲状腺ホルモンの異常が関係して起こるもの
(例:上眼瞼後退の一部など)
バセドウ病の治療によって、甲状腺機能が改善すれば、徐々に収まってきます。

2.自己免疫や炎症が関係しているもの
(例:眼球突出、上眼瞼後退、斜視や眼球運動障害など)
服薬(抗甲状腺薬)だけで改善させるのは難しいと考えられています。
特に、眼球突出は一度症状が出てしまうと治りにくいため、ご自身がバセドウ病であることを他の症状から早期に気付き、治療を開始することが非常に大切です。

外眼筋の炎症によって、眼球運動障害や視覚的症状(複視など)がある場合には、「ステロイドパルス療法」などの治療法があります。

【免疫異常による眼症状の治療法】
(1)ステロイドパルス療法+放射線外照射療法
外眼筋に炎症がある場合などは、炎症を和らげるためにステロイド薬を投与します。これを「ステロイドパルス療法」と呼びます。
この治療を行った後、多くの場合、「放射線外照射療法」を併用します。放射線を照射して、炎症の再発を防ぐためです。
これらの治療法は、急性期の炎症の強い時期に受けるとより高い効果が期待できます。タイミングを逸することなく適切な治療が受けられることが大切ですので、担当の医師によく相談しましょう。

(2)手術
「眼窩減圧術」という眼球にかかる圧力を下げる手術を行うことがあります。これは、眼球突出でまぶたが閉じにくい場合などに、眼球の周りにある骨の壁を削ることでスペースを広げ、圧力を下げる方法です。
このほかにも、斜視手術・眼瞼手術などの方法があり、これらの手術は、主に炎症症状のある急性期ではなく、慢性期(症状が変化しない時期)に行われます。

いずれの場合も、甲状腺が原因となる眼症状では、検査や治療について、眼科医と甲状腺専門医が協力して行います。バセドウ病の治療を受けている医療機関に眼科がない場合には、甲状腺眼症に詳しい眼科医を、甲状腺専門医に紹介してもらいましょう。

なお、喫煙はこれらの眼症状を悪化させます。バセドウ病の治療にとって、禁煙は重要ですが、特に眼症状のある方は、直ちに禁煙を始めてください。

最後に、眼症状は治療を受ければある程度の改善は見込めますが、完全に症状が消えるケースはあまり多くありません。
アメリカでは最近になって、甲状腺眼症の治療薬が初めて承認されました。日本でも治験が開始されており、治療法の研究の進化が期待されています。

(出典:西川光重、赤水尚史、宮内昭(2022)「甲状腺の病気といわれたら」NHK出版)

関連記事