インタビュー

研究も日々の臨床も、患者さんに喜んでいただくために

大学卒業と同時に内分泌領域の道へ

私は1980年に京都大学医学部を卒業後、京都大学元総長の井村 裕夫(いむら ひろお)先生が当時教授を務められていた旧内科学第2講座(第2内科)に入局しました。第2内科の中にもいくつか専門分野がありましたが、その中心となる領域は内分泌だったため、私も内分泌を専攻にしました。つまり、医学部卒業と同時に内分泌領域へと足を踏み入れたことになります。
さらに、臨床研修を行った神戸市立中央市民病院(現・神戸市立医療センター中央市民病院)内科の当時の部長である森 徹(もり とおる)先生が甲状腺を専門にされていたため、森先生から甲状腺診療についてさまざまなことを教えていただきました。そこから甲状腺との“縁”が始まりました。また、その頃から神戸の甲状腺研究会に出席させていただいており、隈病院院長の宮内 昭(みやうち あきら)先生とも研究会の場でたびたびお会いする機会がありました。
研修修了後は京都大学へ戻り、大学院や留学先で甲状腺の研究に取り組んだり、関連病院で内科・内分泌科疾患の臨床経験を積んだりしました。また、グレリンの創薬に関する研究に10年ほど関わった経験もあります。
そして2010年から10年間、和歌山県立医科大学内科学第一講座の教授を務め、2020年4月に隈病院副院長に就任しました。
このように、私は医師としてのキャリアをスタートしてから、合間にグレリンの研究を挟みながらも、40年近くにわたり内分泌医療に携わっていることになります。

人とのつながりがきっかけで甲状腺を専門に

今の道を選んだ一番のきっかけは“ご縁”です。甲状腺を専門にしようと決めたのは神戸市立中央市民病院で出会った森先生のお人柄に惹かれたからですし、そもそも京都大学で第2内科に入った理由も、そこで教授を務められていた井村先生に憧れて、“井村先生に指導していただきたい”と思ったからです。後ほど詳しく述べますが、隈病院に来たきっかけも宮内先生とのつながりが大きく影響しています。
私は、人との縁や人とのつながりでここまできたといっても過言ではありません。

全身に影響する内分泌の面白さ

もともと私が内科に興味を持ったのは全身を見られる診療科に進みたかったからであり、特に“全身を見る”ことにフィットしていたのが内分泌でした。
内分泌は消化器・心臓・免疫・神経に至るまでの全身の機能を調整し、ホルモン分泌によってホメオスタシスを維持するという重要な役割を担っています。仮に甲状腺から甲状腺ホルモンがまったく出なければ全身の代謝が上手くいかずに死んでしまうことがあります。また、人が誕生してから成長し、やがて老いていくという人生の時間軸のあらゆるステージでも、内分泌は密接に関わっています。内分泌という概念は抽象的で一見分かりにくいのですが、それだけ専門性が深く、研究のしがいがある領域だと感じています。

入職のきっかけ、入職後に感じた隈病院の特長

旧友・宮内先生との長い縁が隈病院へのつながりに

隈病院に入職することになった最初のきっかけは、宮内先生から直接お誘いをいただいたことでした。先に述べたように、宮内先生とは若手の頃から知り合いで長く付き合わせていただいており、テニス仲間でもあります。ですから、隈病院に入職することについて迷いはありませんでした。このことに関しても、やはり人との縁が隈病院と私をつないでくれたのだと思っています。

患者さんを中心にした診療体制

実際に隈病院に入職して感じたことは、患者さんを中心とした診療体制ができていることです。多くの方が受診されても滞りなく診療が進められるように、病院全体の設計に配慮がなされています。また、内科であれば診断および薬物治療、外科であれば手術と、それぞれの分野の専門医が過去の症例データに基づいた診療を実施していますし、コメディカルや事務部のスタッフも診療の担い手である医師を常に支えてくれます。

効率性を追求したメリハリのある働き方が定着

隈病院全体がオン・オフのメリハリをつけた働き方を推進しており、職員は効率性を重視した働き方が実現できていると感じます。朝礼は毎日定刻ぴったりか定刻よりも少し早い時間に始まり、形だけの業務や余分な会議は発生しません。就業時間もきちんと決まっているため、定刻になれば業務は終わります。この働き方は大学とはかなり異なるので、最初は驚きました。

大学と隈病院、両方に在籍して感じた性質の違い

大学と隈病院は、“総合病院”と“専門病院”という明確な区分があり、その意味では両者は両極的な位置づけにあります。また、大学はその性質上どちらかというと教育・研究が中心になる一方で、甲状腺を専門病院とする隈病院はどちらかというと診療が日々の仕事の中心になります。ただし、隈病院は研究面にも積極的に取り組んでいますし、総合病院と専門病院はそれぞれ完全に別物と捉えるべきではなく、本質的にはつながり合っていて、どちらも大切な役割があります。私も隈病院に来てから、大学勤務時代とは違う環境に身を置いていると感じています。甲状腺という同じ分野の世界にいるにもかかわらず、今はその世界の見え方や見る場所が変わり、新鮮な感覚です。

医師の個性を尊重し患者さんや社会に還元する研究体制の構築を目指したい

隈病院にはそれぞれの研究のベースとなるデータがそろっていますし、隈病院に入職する医師は皆さん高いモチベーションを持っています。さらに、医師の方々は皆さん研究熱心で、基本を大切にしていらっしゃいます。このベースがあることを前提に、これから新しい研究体制を模索していきたいと考えています。
研究体制を考えるにあたり一番大切な要素は“人”だと思います。同じ甲状腺内科医でも、医師一人ひとりにそれぞれ個性や長所、希望研究テーマなどがあるはずですから、それらを最大限生かしつつ、その方の個性や長所をさらに成長させられるような環境下に配置することが重要です。それぞれに合った環境で、それぞれの医師が興味をもっているテーマについて自発的に研究を進めていただけるような体制が作れればよいと考えています。
 
また、こうした研究も日々の臨床も、最終的には患者さんに喜んでいただくための取り組みだということを併せて伝えていきたいです。研究から得られた結果が病気の治療につながり、患者さんに喜んでもらえたという達成感が“医師をやっていてよかった”という思い、ひいては次の研究へのモチベーションに結びつくでしょう。
 
 

このインタビューのドクター

1980年に京都大学医学部を卒業後、同大学医学部付属病院や神戸市立中央市民病院などで内分泌学を専攻し、特に甲状腺分野におけるキャリアを開始。米国国立衛生研究所(NIH)留学などを経て、2007年京都大学医学部付属病院探索医療センター教授、2010年より和歌山県立医科大学内科学第一講座教授に。長年にわたり内分泌医療の研究および診療に尽力してきた。さらに、日本甲状腺学会理事長、日本内分泌学会代表理事、国際内分泌学会理事などを歴任し、国際的にも広く学会の発展にも貢献した。 2020年4月より隈病院に入職し、副院長に就任。2022年4月からは院長を務め、後進の指導や新たな研究体制の構築を進めている。和歌山県立医科大学特別顧問・名誉教授。

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