インタビュー

甲状腺がんの手術手技を究めて患者さんを元気にしたい

九州大学耳鼻咽喉科学教室から隈病院へ

長崎大学医学部を卒業後、九州大学大学院医学研究院 耳鼻咽喉(いんこう)科学教室へ入局し、九州各地の関連病院の耳鼻咽喉科で診療を行ってきました。関連病院をまわるなかで、がんの外科治療がとてもやりがいのある領域であることを実感しました。そこから頭頸部外科に興味を持つようになり、頭頸部がんをより深く学ぶため九州がんセンター 頭頸科に2018年から2年間在籍しました。
 
在籍中に甲状腺がんの手術を担当することが多かったこともあり「甲状腺外科をより究めて日本内分泌外科学会 内分泌外科専門医の資格を取得したい」との思いが強くなりました。もともと、マイクロな世界で繊細な手技が必要とされる脳神経外科領域に興味がありました。頭頸部外科の中でも、甲状腺は精密な技術が必要とされる分野だと感じており、だからこそ甲状腺外科の領域を究めたいと思ったのかもしれません。
また、ほかのがんや耳鼻咽喉科系疾患と異なり、甲状腺がんは一部悪性度の高いものを除いて手術単独で治療完遂が期待できる病気のため、自分自身の手技を追求することで患者さんの治療予後というメリットに直結する点にも魅力を感じています。そこで、甲状腺の手術を数多く行っている病院で研鑽を積みたいと医局の教授に相談したところ、隈病院への医局派遣が決まり、2022年4月の入職と同時に九州から神戸へ移り住みました。神戸は出身地の福岡と少し似ているところもあって住みやすい街だと感じています。

明確に言語化された手術手技の指導

私の場合、入職後最初の3か月間は助手として隈病院の甲状腺手術を学びました。その後徐々に自身の執刀回数が増え、現在は週に2〜3回のペースで執刀しています。また、現在も助手として手術に入ることがあるので、週2回の外来以外はほとんど手術に携わっていることになります。
助手として入るときには、執刀医の先生が術中にさまざまな技術を教えてくださいます。複数の先生から指導を受けられるため、隈病院の標準的な手術をさまざまな角度から学ぶことができています。たとえば反回神経の見つけ方や上甲状腺動脈の処理の仕方、出血しやすい部位などについて、いわゆる“見て覚えろ”という方法ではなく、言語化された説明で丁寧に教えてくださるので、非常に分かりやすいです。そのおかげで、反回神経の発見速度を速めたり、手術時の出血量が減少したりと、自身のスキルアップを実感しています。
先輩医師が、甲状腺を専門とする隈病院で積み重ねてこられた経験や知識を、惜しみなく共有してくださるのは本当にありがたいことです。

医師が診療に集中できる病院の体制

隈病院は、“チーム医療”の体制が整っています。当院の“チーム医療“は、医療専門職(医師・コメディカルなど)だけでなく事務スタッフなども患者さんの診療を支えるメンバーとして考えられ、それぞれの役割分担が明確化されていて各自が責任を持って自分の業務にあたります。また、各部署・業務間における連携もしっかりしているからこそ、医師は患者さんの診療に専念できるのだと思います。
加えて当院は、仕事と育児との両立がしやすく、メリハリをつけて働ける環境だと感じます。私には子どもがいるのですが、勤務中は患者さんの診療に集中してギュッと濃縮された時間を過ごし、勤務終了時刻には、たいてい予定していた作業を終え、帰宅して家族と過ごす時間を確保することができています。忙しい1日を過ごし疲れていても、帰宅して子どもと一緒に食事をし、しっかり休息を取ることで、次の日はまた新たな気持ちで患者さんに向き合うことができます。

臨床・研究のいずれにも取り組める環境

入職前、私にとって隈病院は手術に力を入れている病院という印象で、実際、入職してみてもイメージと違わず、多数の手術実績と、経験や知識豊かな先輩医師がたくさんいらっしゃいました。しかし、当院が手術だけではなく論文発表にも同じくらい力を入れている病院だということは、入職後初めて知り、大変驚きました。手術実績数に裏打ちされるように、集まる症例数が多く、また臨床的に珍しいケースの診療を行える専門病院だからこそ、このような学術的な活動にも積極的に取り組むことができるのだと感じています。
 
しかもここでは指導医だけではなく、若手の医師たちも積極的に研究活動・論文執筆に取り組んでいます。
私自身は、まずは手術手技をさらに成熟させ臨床の経験値を積み重ねることを第一に考えていますが、将来的には現在検討中のテーマや、自分が疑問に思った事柄を解決するようなテーマについて研究発表を行っていきたいと考えています。当院は、研究や論文作成に関しても、周囲の先生方が相談に乗ってくださり指導を受けやすい風土があるため、診療と並行しながらの研究活動もチャレンジしやすく、やがては国際学会への英語論文の提出も視野に入れつつ、自発的に取り組んでいきたいです。

甲状腺外科医としてさらなる手術手技の上達を目指す

入職してからこれまで、隈病院で手術を経験するたび、自身の技術をさらに磨きたいという思いがより強くなりました。患者さんの負担を最小限にできるよう、いかに手術時間を短くするか、繊細な手技でいかにきれいに手術するか、目指すべき手本の数々を先輩医師が示してくださるので、意欲が湧き、研鑽を積む毎日です。そうしていつか、自分が思い描く理想の手術ができるようになりたいという気持ちを原動力にして、さらに努力を重ねていきたいと思います。

このインタビューのドクター

頭頸部
外科

隈病院 頭頸部外科
松永 啓秀医師

長崎大学医学部を卒業後、九州大学大学院医学研究院 耳鼻咽喉科学教室へ入局。耳鼻咽喉科医として各地で診療を行うなかで頭頸部がんの外科治療に興味を持ち、頭頸部外科としてのキャリアを積むべく2018年から九州がんセンターに赴任。甲状腺外科領域の技術を究めたいという思いが高まり、2022年より隈病院頭頸部外科に入職。甲状腺外科医としてのさらなる手術手技の上達を目指して診療に取り組んでいる。

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