
きっかけは研修医時代に見た頭頸部の手術
初期研修が始まった当初、私は内科に進むことを考えていましたが、外科系を研修したときから手術に魅力を感じるようになりました。特に耳鼻咽喉(じびいんこう)科・頭頸部*(とうけいぶ)外科領域は、音を聞く「耳」、匂いを嗅ぐ「鼻」、声を出す「喉」と生活に大きく影響する部位が集中しています。これらの部位に病気があると患者さんの生活の質(QOL)が下がりますが、治療によってQOLの改善が見込めるため興味がある領域でした。そんな矢先、研修で頭頸部の複雑な解剖とそれゆえに繊細で高度な技術が問われる手術を初めて見たことが、頭頸部外科医を進路として考えるきっかけとなりました。その後、奈良県立医科大学、近畿大学奈良病院で勤務した際に、甲状腺診療が興味深いと感じ、専門性をもっと高めたいという思いから隈病院への入職を希望しました。
*頭頸部:鼻、のど(咽頭、喉頭)のほか口腔、唾液腺、甲状腺など、脳と目を除く首から上の領域を指す。
敷居の高いイメージが手術で一変
隈病院に入職した直後は、廊下を歩くと甲状腺領域で有名な先生方がいらっしゃって敷居が高いというのが第一印象でした。ですが、その先生方と一緒に手術に入ると「なぜこのような手技で手術を行うのか」を分かりやすく言語化し説明してくださいます。どんなに忙しくても時間を惜しまず教えていただけることは、本当にありがたいです。さらに毎週行われるカンファレンスでは、外科・頭頸部外科の医師だけでなく、複数の診療科から医師が出席。入職歴にかかわらず誰でも症例を相談できるうえ、ベテランの先生方の意見をお聞きする貴重な機会となっています。このカンファレンスは私にとって新しい知識を得られるとても大切な時間です。また隈病院は手術やカンファレンスだけに限らず、普段困ったときも近くにいる先輩医師にすぐに聞くことができる環境なので、安心して仕事ができます。
手術だけでなく内科領域も診られることが経験につながる
今までの病院では、甲状腺領域で担当する患者さんの多くが腫瘍(しゅよう)のある方でした。隈病院に入職してからは、内科的疾患であるバセドウ病や橋本病などの患者さんも診察しています。大学病院や総合病院であれば、バセドウ病や橋本病は内科の医師が担当することが多いため、外科の私が診ることはあまりなかったのですが、隈病院では甲状腺疾患を網羅的に診察し、さらに甲状腺を専門とする病院であるがゆえの膨大な症例数*から、多くの経験を積むことができます。甲状腺領域で研鑽を積むのに適した環境だと思っています。
*手術件数1536件(2023年1~12月)
女性だからこそできる患者さんとの向き合い方
バセドウ病や橋本病といった甲状腺疾患は、女性患者さんが圧倒的に多いです。そのため私が同性であることで、打ち明けにくい女性特有の症状や悩みを話していただける場面があり、そのようなときは特にやりがいを感じますし、さらに専門性を高め患者さんに向き合いたいという気持ちになります。
ワークライフバランスを保ちながら医師としてのキャリアも積める
隈病院を知ってから入職するまで、実は3回見学に来させていただきました。最初の2回は手術、最後の1回は外来診療も併せて見学し、毎年3月に行われる隈病院甲状腺研究会にも参加。さまざまな先生のお話を聞き、特に印象的だったのが外科の川野 汐織(かわの しおり)先生との出会いでした。年齢が近かったこともありますが、手術・外来・当直と精力的に仕事をこなしている姿に感銘を受けたのを覚えています。お人柄も気さくで話しやすく、一緒に働けたらと考え入職の決め手の一つとなりました。実際、働いてみると隈病院の先生方は手術、外来診療のほかに研究活動をされている方もいますが、基本的には、定時までに仕事を終わらせるというメリハリのある働き方をされています。このような雰囲気なので、私自身も隈病院に入職してから、仕事を効率よく行うとともに、家族や友人との時間もより大切にできるようになりました。特に女性の先生方が子育てをしながら活躍されている様子は、「私もこうなりたい」と思える姿であるため目標にしています。隈病院を選んで入職できたことに感謝しつつ、どんなライフプランになっても、仕事を続けてキャリアを積んでいきたいと考えています。
論文執筆、専門医資格取得……隈病院でできることは全てやりたい
隈病院は手術の症例も多く、論文を書くのにも恵まれた環境だと思います。入職してからすでに100例ほど*の手術を経験してきました。今後は、学会発表や論文の執筆などの学術活動にも力を入れていきたいと考えています。現在は、名誉院長である宮内 昭(みやうち あきら)先生と共に、上喉頭神経外枝**(じょうこうとうしんけいがいし)に関する論文を執筆するために、データの収集をしているところです。このようなテーマで論文が書けるのも、甲状腺領域に特化した隈病院ならではのよさだと思っています。さらに宮内名誉院長のような大先輩に直接、論文をご指導いただける環境はあらためて恵まれていると感じます。今後は、隈病院に勤務しているからこそ専門領域をさらに深めて、「日本甲状腺学会認定専門医」、「日本内分泌学会内分泌代謝科専門医」などの資格をとることを視野に入れています。
*100例ほど:2024年2月~2025年2月末までに担当した手術件数。
**上喉頭神経外枝:高い声や大きな声を出すために指令を伝える神経。
このインタビューのドクター
鳥取大学医学部を卒業後、奈良県立医科大学 耳鼻咽喉・頭頸部外科に入局。その後、近畿大学奈良病院 耳鼻咽喉科を経て、次第に甲状腺領域で症例数が多い隈病院で研鑽を積みたいと考えるようになり、2023年10月隈病院に入職。 現在は頭頸部外科にて勤務。外来での診療や手術の執刀と学びの多い毎日を送っている。
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