インタビュー

女性甲状腺外科医として患者さんの力になりたい

学生時代から続く甲状腺外科への思い

最初に私が甲状腺外科に興味を抱いたのは、金沢医科大学医学部の医学生時代です。実習生としてさまざまな科をまわるなかで、自分の技術で治療をすることのできる外科は自分の性格に合っていると感じ、外科医として患者さんの治療に関わりたいという気持ちが強くなりました。また見学しているなかで、外科医のほとんどが男性であることにも気が付き、「女性の患者さんが多い甲状腺分野に、外科医として自分が携わることで、患者さんの役に立つことができるのでは」と感じるようになったのです。

隈病院での挑戦を後押ししてくれた教授の提案

金沢医科大学医学部を卒業後、同大学の頭頸部外科(とうけいぶげか)学教室へ入局し、2023年現在で入局5年目です。大学では主に舌がんや喉頭(こうとう)がんなど、再建手術もある大きな頭頸部がんの手術を経験してきました。現在は日本耳鼻咽喉(いんこう)科頭頸部外科学会 耳鼻咽喉科専門医の取得を目指しながら、まずは甲状腺外科診療の技術を向上させたいとの強い思いがあります。
私は兵庫県出身で父が医師だったこともあり、幼い頃から隈病院の名前をよく耳にしていました。昔から“甲状腺疾患の治療といえば隈病院”というイメージがあり、他県からも患者さんが受診されている様子を聞いていましたので、甲状腺の勉強をするならぜひ隈病院に行きたいという思いが学生時代からありました。
さらに、所属している医局の当時の教授は隈病院と関係の深い先生で、医局で耳鼻咽喉科・頭頸部外科について広く学びつつ、さらに隈病院で甲状腺手術のスキルアップを目指せると提案してくださったこともあり、2022年に隈病院への入職に至りました。

診療科問わず気軽に指導してもらえる環境

前に抱いていた“敷居の高さ”が覆された

幼いころから耳にしていた病院だったこともあり“有名な病院”という印象が強く、入職前はどことなく敷居の高さを感じていました。現在入職して8か月がたちましたが、実際にはそのようなことはなかった、というのが正直な感想です。入職当初は「こんな質問をしてもよいのだろうか」と気が引けていましたが、どのような質問に対しても先輩医師の方々が快く答えてくださいました。その意味で、敷居が高いという入職前の印象はガラリと変わりました。
また、他科との垣根が低く、外科だけではなく内科や病理診断科の先生方にも気軽に相談できる環境があることに感銘を受けました。たとえば、研究のために病理診断科を訪れると、指導医の廣川満良先生が温かく迎えてくださり、顕微鏡での組織の観察についてフランクに教えてくださいます。外科医でありながら病理の勉強にも取り組むことができ、ありがたいと感じています。

偏りなくさまざまな手技を学べる指導体制

隈病院では手術の執刀医と助手のペアが固定ではありません。そのため、複数の先生の助手を経験できますし、自分が執刀する際も術式やシフトなどによって、サポートしてくださる先生が異なります。異なる先生とともに手術に入ることで、基本となる技術にプラスして、それぞれの先生方から幅広くノウハウを学ぶことができるため、視野が偏ることなくさまざまな技術を習得することができます。
 

他診療科との連携による内容の濃いカンファレンス

当院のカンファレンスは、全診療科の先生方が集ってそれぞれ専門の観点から活発に意見を交わしているので、さながら学会のようだなとよく思います。さまざまな科の先生方から多様な意見を聞きながら、刺激を受けることのできる環境が整っています。

育児・キャリアのどちらも大切にできる環境

私には1歳になる子どもがいますが、男性・女性にかかわらず、隈病院は私のような育児中の職員も働きやすい環境が整っていると感じています。当直は希望制のため、現在は育児の真っ最中ということもあり、当面は希望せず、当直なしで勤務させていただけるのがありがたいです。
日勤においても、たとえば子どもの急な体調不良で早退したり、保育園のお迎えなどで時間の融通がきかない場合は、ほかの先生方が快く交代してくださったり、事前に相談しておいて時間どおりに退勤できるような調整ができたりと、病院全体で協力体制がつくられています。もちろん決まったシフトや必要な超過勤務などは、可能な限り自身で対応し周囲への負担にならないよう気を付けていますが、育児もキャリアも大切にできる環境下で、とても助けられています。
子どもには、母である私が甲状腺外科医として患者さんの病気を治療しているのだと、胸を張って言えるようにありたいと思っています。将来同じ業種に就かなくても、私の医師としての姿が何らかの形で子どもの心に響けば嬉しいですね。そのためにも子どもを自分でお迎えに行ったり、なにかあったときにはすぐに駆けつけたりして、ともに過ごす時間を確保できているのは、ありがたいことだと感じています。

甲状腺外科医としてのこれから

さらなる手術手技向上を目指して

今は甲状腺外科医としての手術の上達が一番の目標です。隈病院でさまざまな症例の経験を重ねていく中で、自分ももっと手術手技を向上させたいという気持ちが日に日に強くなっていくのを感じます。
手術に際して、先輩医師からは“基本を大事に守ること”を意識するよう指導いただいています。実際に先輩医師の手術を見ていると、基本の中にプラスしてそれぞれの応用手技を取り入れつつも、当院のどの医師にも共通する「基本の技術」があることが分かります。さまざまな応用手技を習得することも必要ですが、私もまずは基本的な技術を大事にして、基本の技術を基盤に応用をプラスしていくことができればと思っています。

将来は北陸の甲状腺診療を盛り上げていきたい

この先も、女性医師として患者さんの役に立つという当初の目標に向かい、尽力していきたいです。現に今も、手術後や外来で患者さんから「女性の先生でよかった」「話しやすい」と言っていただくことがあり、そんなときはこの道を選んで本当によかったと嬉しい気持ちになりますね。今後金沢の医局に戻った際には、隈病院で学んだことを診療に生かすことができるよう精一杯吸収していきたいと思っています。先に隈病院で勉強して金沢に戻られた先輩医師と共に、北陸全体の甲状腺診療を盛り上げていけたらと思っています。

このインタビューのドクター

頭頸部
外科

隈病院 診療本部 頭頸部外科
石坂 智(~2024.03 非常勤)医師

金沢医科大学医学部を卒業後、女性甲状腺外科医を目指して同大学頭頸部外科学講座に入局。 入局後は、耳鼻咽喉科専攻医として、大学病院で診療経験を積む。 甲状腺専門病院でのスキルアップを目指し、2022年に隈病院 頭頸部外科に入職。 甲状腺疾患に関する臨床のスキルアップに努める。2024年3月に隈病院を退職し、非常勤にて勤務。

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