インタビュー

論理的根拠に基づいた甲状腺の手術手技が学べる

頭頸部外科医として甲状腺疾患を学ぶために入職

私は2011年に金沢医科大学医学部医学科を卒業後、同大学耳鼻咽喉(いんこう)科学講座に入局して耳鼻科領域全般を学びました。2017年に日本耳鼻咽喉科学会認定耳鼻咽喉科専門医を取得した後、耳鼻咽喉科から独立してできた同大学内頭頸部(とうけいぶ)外科学講座に移り、頭頸部外科医としての道を歩み始めました。
これからは頭頸部外科を専門にしていこうと考えていたとき、隈病院 院長の宮内 昭(みやうち あきら)先生から医局の教授に、「そちらから頭頸部外科医を一人、隈病院に派遣してくれないか」というお話がありました。もともと金沢医科大学頭頸部外科は甲状腺腫瘍(こうじょうせんしゅよう)の治療に力を注いでおり、甲状腺疾患の診療を専門に担う人材育成が必要とされていましたから、甲状腺の専門病院である隈病院での研修は願ってもない好機でした。
ご縁あって私が研修に行かせていただくことになりましたが、大学院への進学が先に決まっていたため、院での研究が一段落した2020年に入職しました。金沢医科大学から隈病院に医師が医局派遣されるのは今回が初だと聞いています。

頭頸部外科・甲状腺外科の面白さ

そもそも私が頭頸部・甲状腺領域に足を踏み入れた最初のきっかけは、初期研修で耳鼻咽喉科・頭頸部外科を回ったときに、その雰囲気のよさと面白さに興味を惹かれたことでした。この領域は頭頸部がんのような大きな手術がある一方で、顕微鏡を用いた耳の手術や鼻の内視鏡手術などもあり、手術だけでもバラエティに富んでいます。そのため、多様な手術を経験できると思いました。さらに、外来診療では小児の中耳炎から高齢者のがん、嚥下(えんげ)障害まで、老若男女を診る診療科である点にも惹かれました。頭頸部外科は頭頸部のがんなど大きな病気を診る機会が多いため、大きなやりがいを感じられます。
頭頸部には“しゃべる”、“食べる”、“呼吸する”といった人間が生活していくうえで必要不可欠な機能が集中しています。そのため、そこにできたがんを治療するためには、根治性に加えてQOLも考慮する必要があります。特に甲状腺外科では音声に関連する神経や筋肉を温存することが重要になります。そのような点が頭頸部外科・甲状腺外科の難しさであり、面白さでもあると思います。

「隈病院は敷居が高い?」 そのイメージは入職後に一変

隈病院には国内外を問わずご活躍されている先生方がたくさんいらっしゃり、院長の宮内昭先生はもちろん、大学勤務時代から副院長の宮 章博(みや あきひろ)先生や治験臨床試験管理科科長/外科医長の伊藤 康弘(いとう やすひろ)先生の学会発表も拝聴していたので、入職前はどうしても“敷居が高い”というイメージがぬぐえませんでした。ですから、入職するまでは「私のような地方出身の若輩者が先輩方についていけるのか」「きちんとやれるか」という不安がありました。
しかし、入職してからその印象は一変しました。実際に感じるのは、先輩医師の方々は皆さんとても優しく、気さくに接してくださるということです。日々の診療や手術で分からないことがあっても質問すれば丁寧に教えてくださりますし、趣味など仕事以外の話で先輩医師と盛り上がるときもあります。よい意味でイメージがガラリと変わり、若手医師を快く受け入れてくれ、育ててくれる雰囲気だと実感しました。

論理的根拠に基づいた手術手技を学べる環境

先輩医師から手術手技の“理論”の指導を受ける

入職後、先輩医師から指導を受けて非常に驚いたのは、手術全般に対する考え方です。それまでは感覚的な部分に頼っている面があった手術に関して、論理的な根拠に基づいた手順や手技があることを教えていただいたときは、心の底から感動しました。たとえば皮弁1つを形成するにしても、しっかりとした理論に基づく切開法や牽引法があるのです。そのおかげで、手術の動作一つひとつの意味をはっきりと理解することができました。

さまざまな観点からの知識を得られる体制

隈病院では、助手を務める場合も執刀医を務める場合も、手術の際はさまざまな先生とローテーションする形でペアを組みます。そのため多様な意見を聞けますし、そこで得た発見から自分の手技を見直してブラッシュアップすることもできます。実際、隈病院に来てからさまざまな先輩医師と一緒に手術を経験したことで、よりいっそう手術への理解が深まったと感じています。

集中して日々の仕事に取り組める環境

現在、頭頸部外科医としての基本的な仕事内容は外科と同じく外来および手術が中心です。外科と異なる点を挙げるとすれば、術前術後の反回神経評価のための喉頭(こうとう)ファイバーを担当している点や、カンファレンスで耳鼻咽喉科医の目線から意見を求められる場合がある点などです。
隈病院ではそれぞれの仕事役割がシステマティックに分担されており、自分の仕事に集中して取り組めるため、定時を超えることはほとんどありません。それでいて効率的に多くの症例を経験できていますし、外来や手術の合間に研究を進める余裕もあります。仕事にかける時間が減ったぶん、退勤後や週末は家族と過ごせる時間が増えて、とても働きやすい環境だと感じます。
 

研究・発表への取り組み

2020年12月現在は宮内先生に与えていただいたテーマに関する臨床研究に取り組んでいる最中です。学会発表は入職後に一度経験しましたが、そのときは主に大学で取り組んでいたことをテーマにしました。2021年春に再び学会発表のチャンスがあるので、次の機会に隈病院での経験を活かした発表ができたらと思っています。

頭頸部外科医としての今後の目標

2020年から2022年までの2年間で、甲状腺外科における手術手技の習得はもちろん、診断、検査、術後管理といった甲状腺診療の全体をしっかりと学んでいきたいです。また、臨床研究については発表だけで終わるのではなく、期間内に論文という形に残すことが目標です。
そして金沢に帰った際は、隈病院での経験を生かして甲状腺診療に従事するとともに、医局のメンバーにも技術を共有していきたいと考えています。大学は教育機関ですから、やがて自分が後輩医師に技術を教える立場になったときのことを考えなければなりません。人に技術を教えるにあたっては自分自身が技術だけでなく理論も高いレベルで身につけている必要があります。頭頸部外科医としてステップアップをしていきたい今だからこそ、隈病院に来られてよかったと思います。甲状腺における全ての面で研鑽できる素晴らしい病院として、医局の後輩にもすすめたいです。

このインタビューのドクター

2011年に金沢医科大学医学部を卒業後、初期研修を修了したのち同大学耳鼻咽喉科に入局。耳鼻咽喉科の臨床および研究に携わる。能登総合病院、加賀市民病院での臨床経験を経て、より自身の専門スキルを高めるため、2018年より頭頸部・甲状腺外科として頭頸部腫瘍および甲状腺疾患の臨床・研究に携わる。2020年4月、隈病院頭頸部外科に入職し、頭頸部外科・甲状腺外科としてのキャリアを磨く。2022年4月隈病院を退職。

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